トキソウ

トキソウ（朱鷺草）とは

トキソウ（学名：Pogonia japonica）は、ラン科トキソウ属に属する多年草です。その名の由来は、美しい紅紫色の花の色が、鳥のトキの羽の色に似ていることからきています。日本では、北海道から本州にかけて自生しており、湿地や湿原で見ることができます。

特徴

トキソウは、地下に根茎を伸ばし、そこから地上に茎を伸ばします。茎の高さは10cmから30cm程度で、葉は1枚だけ茎につき、披針形または線状長楕円形をしています。花期は5月から7月で、茎の先端に1つだけ紅紫色の花を咲かせます。花は横向きに咲き、大きく開くことはありません。

花を構成する萼片は長さが1.5cmから2.5cm程度の長楕円状披針形をしており、側花弁は萼片よりも短く、細長い形をしています。唇弁は側花弁よりも長く、先端が3つに裂けているのが特徴です。特に、中央の裂片は大きく、内側には肉質の毛状突起が密生しています。

分布と生育環境

トキソウは、東アジアの中国、千島列島、朝鮮半島、そして日本に分布しています。日本では、北海道から本州にかけて自生し、四国や九州ではまれに見られる程度です。日当たりのよい湿地や原野に生育しますが、近年は開発による環境破壊や園芸目的の乱獲によって、個体数が著しく減少しています。

保全状況

トキソウは、環境省のレッドリストで準絶滅危惧（NT）に指定されており、多くの都道府県でも絶滅危惧種として指定されています。特に、東京都や山梨県では絶滅、埼玉県や神奈川県などでは絶滅危惧IA類（CR）に指定されるなど、深刻な状況です。湿地の環境変化や盗掘による採集が、減少の大きな原因となっています。

各地で、阿蘇くじゅう国立公園や瀬戸内海国立公園などで保護対象とされ、埼玉県加須市の自生地は県の天然記念物として保護されています。また、岡山県などでは条例により採集が禁止されており、保全のための取り組みが進められています。

分類

トキソウには、以下の下位分類があります。

イトザキトキソウ (Pogonia japonica f. lineariperiantha)：トキソウの変種で、花弁の形が少し異なる。
シロバナトキソウ (Pogonia japonica f. pallescens)：花の色が白い品種。

近縁種

トキソウに近縁な種としては、以下のようなものがあります。

ヤマトキソウ (Pogonia minor)：花が上向きに咲き、花の色が薄く、ほとんど開かない。
ミヤマトキソウ (Pogonia subalpina)：花は横向きに咲き、唇弁の中裂片上の毛状突起が短く、花弁の中央に紫がかったピンク色の帯がある。

類似の種

トキソウと似た種としては、以下のようなものがあります。

サワラン (Eleorchis japonica)：花の色はより鮮やかだが、姿は似ている。地下には根茎ではなく、丸い偽球茎がある。
タイリントキソウ (Pleione bulbocodioides)：台湾産の種で、トキソウという名前で流通することもあるが、属が異なり、生育環境や栽培方法も大きく異なる。

トキソウの現状と課題

トキソウは、その美しい姿から多くの人に愛されていますが、自生環境の悪化や盗掘により、絶滅の危機に瀕しています。今後、トキソウを保護していくためには、自生地の保全だけでなく、一般の方への啓発活動も必要不可欠です。また、栽培技術の確立も、種の保存に役立つと考えられます。

トキソウは、日本の自然を象徴する植物の一つです。その美しさを次世代に伝えるために、私たち一人一人ができることから取り組んでいく必要があるでしょう。

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