トマス・マロリー

トマス・マロリー卿：波乱の生涯と不朽の名作『アーサー王の死』

15世紀イングランド、歴史に名を残すトマス・マロリー卿。その名は、アーサー王物語の金字塔『アーサー王の死』(Le Morte d'Arthur) の著者として、世界中に知れ渡っている。しかし、その生涯は、壮麗な物語とは対照的に、数々の犯罪と投獄、そして謎に包まれた出来事に彩られた、波乱に満ちたものであった。

謎に包まれた出自と生涯

マロリー卿の生誕年は1399年とされているが、確証はない。ウォリックシャー州ニューボールド・レヴェル出身とされることが多い一方、かつてはウェールズ出身とも考えられていた。彼の名前の表記は、Malory、Maillorie、Mallory、Mallery、Maleroreなど、複数存在し、語源は古フランス語の形容詞に遡る。この言葉は「不運な」「前触れのない」といった意味を持つ。

彼の生涯は、多くの謎に包まれている。イングランド議会の議員を2度務めたこと、そして、強盗、強姦、羊泥棒、さらにはバッキンガム公暗殺未遂といった数々の犯罪を犯し、複数の刑務所に収監されたことだけが確実視されている。脱獄も2回経験しており、一度は武器を用いた強行突破、もう一度は堀を泳いで脱出したと伝えられる。驚くべきことに、彼自身に対する賠償請求訴訟には一度も姿を現さなかったという記録が残されている。

ヘンリー6世の恩赦を受けたこともあったが、その後、他の恩赦からは除外されており、その複雑な身分と立場を伺わせる。獄中生活において『アーサー王の死』の一部を執筆したとされる節末の記述からも、マロリー卿の生涯がいかに困難で不確実なものであったかがわかる。

司祭説と『アーサー王の死』

『アーサー王の死』の奥付には、マロリー卿自身による記述が残されている。ウィリアム・オールディスは、この記述から、マロリー卿が司祭であった可能性を示唆している。奥付には、以下のような言葉が記されている。

「私はあなた方、このアーサー王と騎士たちを描いた本をお読みいただいたすべての紳士淑女のために祈りを捧げます。あなた方も、私が生きている間、神が私をお救い下さるようお祈り下さい。私が死んだら、どうか皆様、私の魂のためお祈り下さい。この本は、エドワード4世陛下の治世9年目に、イエスの恩寵に基づき、騎士トマス・マロリー卿によって書かれました。彼は昼夜問わずイエスのしもべであります。」

この記述は、マロリーの強い信仰心と、作品への深い思い入れを物語っている。

不朽の名作と現代への影響

1471年3月、マロリー卿は生涯を閉じた。しかし、彼の残した『アーサー王の死』は、その後何世紀にもわたって読まれ続け、アーサー王伝説の最も重要な作品として、現代においても高く評価されている。T.H.Whiteの『時の流れに』（The Once and Future King）や、ブロードウェイミュージカル『キャメロット』など、多くの作品に影響を与え、ジョン・ブアマン監督の映画『エクスカリバー』では、ほぼ完全な再現が試みられた。現代のアーサー王物語の多くは、マロリー卿の『アーサー王の死』をその根底に持っていると言えるだろう。

トマス・マロリー卿の生涯は謎に包まれている部分も多いが、彼の残した『アーサー王の死』は、時代を超えて人々に愛され続ける不朽の名作として、その名を永遠に歴史に刻み込んでいる。その波乱万丈の生涯と、偉大な業績は、私たちに多くのことを語りかけてくれるだろう。

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