トミー (映画)

ミュージカル映画『トミー』

『トミー』は、1975年に公開されたイギリスのミュージカル映画です。ロックバンド、ザ・フーが1969年に発表したロックオペラアルバム『トミー』を原作としています。監督はケン・ラッセルが務め、ザ・フーのピート・タウンゼントが原案と音楽監督を担当しました。主人公のトミーは、ザ・フーのボーカルであるロジャー・ダルトリーが演じています。

ストーリー

この映画は、全編にわたって台詞が一切なく、歌のみで構成された「sung-through」形式が採用されています。

プロローグ 1945

第二次世界大戦中、ウォーカー大佐は身重の妻ノラを残して出征します。ノラは空襲におびえながらも、夫の帰りを待ち望んでいました。

Captain Walker / It's A Boy

ノラに届いたのは、「ウォーカー大佐、帰還せず」という悲しい知らせでした。終戦の日、ノラは男の子を出産し、トミーと名付けます。

Bernie's Holiday Camp

1951年、ノラはトミーを連れてバーニーのホリデイ・キャンプへ。そこで、ノラはキャンプの世話人フランクと恋に落ち、再婚します。

1951 / What About The Boy?

幸せな日々を送るノラとフランクでしたが、死んだと思われていたウォーカー大佐が帰還します。フランクは、ウォーカー大佐をランプで殴り殺してしまいます。その一部始終を目撃したトミーに、ノラとフランクは「何も見なかった、何も聞かなかった」と強要します。この事がトラウマとなり、トミーは盲目、聾唖、唖の三重苦を抱えてしまいます。

Amazing Journey

三重苦となったトミーですが、心の中では様々なものを見、感じていました。しかし、外界からの声には全く反応しませんでした。

Christmas

ノラとフランクはクリスマスパーティーを開きますが、トミーは全く関心を示しません。クリスマスの意味も理解できないトミーを、ノラは深く悲しみます。

Eyesight To The Blind

成長しても三重苦のままのトミーを、ノラはマリリン・モンローを偶像崇拝するカルト教団の集会に連れて行きます。

The Acid Queen

フランクは、トミーを売春宿に連れて行き、アシッド・クイーンと呼ばれる女性に治療を受けさせようとします。アシッド・クイーンは麻薬でトミーを治療しようと試みます。

Do You Think It's Alright? I

ノラとフランクは、トミーをいとこのケヴィンに預けて出かけます。

Cousin Kevin

学校一の乱暴者のケヴィンは、トミーを執拗にいじめます。

Do You Think It's Alright? II

再び、ノラとフランクはトミーを叔父のアーニーに預けて出かけます。

Fiddle About

叔父のアーニーもまた、トミーに様々な悪戯を仕掛けます。

Do You Think It's Alright? III

鏡を見つめるばかりのトミーを、ノラは心配しますが、フランクは気にも留めません。

Sparks

トミーは、鏡の中の自分に導かれるように歩き出し、スクラップ置き場に迷い込みます。そこで、トミーは捨てられていたピンボール台の上に光を見つけ、夢中でプレイします。

Extra, Extra, Extra

三重苦の少年がピンボールをするという噂は瞬く間に広まり、トミーは時の人となります。ピンボール対決で連戦連勝を続け、ついにチャンピオンと対決します。

Pinball Wizard

トミーは、チャンピオンを打ち破り、「ピンボールの魔術師」の称号を得ます。人々はトミーに熱狂します。

Champagne

トミーの活躍で巨万の富を得たノラですが、富は安らぎを与えず、トミーの三重苦にもがき苦しみます。

There's A Doctor

フランクは、トミーを治せると言う医者を見つけます。

Go To The Mirror

医者は、トミーの視覚や聴覚は正常で話すことも可能だが、心の障害がそれを阻んでいると診断します。フランクはトミーの頭の中で何が起こっているのかを知りたいと思います。

Tommy Can You Hear Me?

ノラは必死にトミーに語りかけますが、トミーは全く反応しません。

Smash The Mirror

苛立ちの頂点に達したノラは、トミーを鏡にぶつけてしまいます。

I'm Free

鏡が割れた衝撃で、トミーはついに回復し、外界との繋がりを取り戻します。

Mother And Son

トミーとノラは、三重苦から解放された喜びを分かち合います。

Miracle Cure

トミーが回復したというニュースが広まり、トミーは宣伝活動に駆り出されます。

Sally Simpson

少女サリーは、父親の忠告を無視してトミーのコンサートに出かけますが、会場の狂乱に巻き込まれて顔に傷を負います。

Sensation

トミーは、ハンググライダーで世界を飛び回り布教活動をします。

Welcome

トミーは、信奉者たちを自宅に招き入れます。

T.V.Studio

トミーの影響は世界中に広まり、ノラはテレビで「トミーのホリデイ・キャンプ」の開催を告知します。

Tommy's Holiday Camp

トミーのホリデイ・キャンプに多くの信奉者が集まりますが、徐々にトミーへの疑念が生まれます。

We're Not Gonna Take It

トミーの指示通り、目隠し、耳栓、口にコルクをした状態でピンボールをする信奉者たち。しかし悟りの境地には至らず、暴徒化します。キャンプは崩壊し、ノラとフランクは混乱の中で命を落とします。

Listening To You / See Me, Feel Me

全てを失ったトミーは、再び孤独の世界に閉じこもりますが、彼を縛るものはなく、真の自由を手に入れたトミーは、山に登り朝日を浴びながら歌います。

キャスト

フランク・ホッブス: オリヴァー・リード
ノラ・ウォーカー: アン＝マーグレット
トミー: ロジャー・ダルトリー
ピンボールの魔術師: エルトン・ジョン
伝道師: エリック・クラプトン
叔父のアーニー: キース・ムーン
いとこのケヴィン: ポール・ニコラス
専門医: ジャック・ニコルソン
ウォーカー大佐: ロバート・パウエル
アシッド・クイーン: ティナ・ターナー

作品解説

ザ・フーのオリジナルアルバム『トミー』は、父親を殺害した少年トミーが、自ら三重苦になり内なる世界に閉じこもる物語です。ピート・タウンゼントが、インドの導師メヘル・バーバーの教えに影響を受けて書いた内省的で繊細な作品でした。映画化によって、抽象的な内容が映像で具体的に表現され、物語が理解しやすくなりました。

映画は、全編歌のみで構成されており、台詞は一切ありません。タウンゼントは、映画のために多くの楽曲に歌詞を追加し、新曲も書き下ろしました。

一方、映画にはケン・ラッセル監督のアバンギャルドで狂気的な演出が施されており、原色を基調にした非常にカラフルな映像が展開されています。ラッセルは、自身の未完成作品を投影させたため、オリジナルの内省的な面が損なわれたと、タウンゼントは失望したと語っています。

音楽

音楽は全て新たにレコーディングされ、オリジナルの音源は使用されていません。タウンゼントはシンセサイザーを大幅に導入し、よりシンフォニックなアレンジを施しました。ザ・フーのメンバーに加え、ミック・ラルフス、ロン・ウッド、ケニー・ジョーンズ、ニッキー・ホプキンスなど、多くの豪華ミュージシャンがレコーディングに参加しています。

出演者全員が、自分の役の歌を自らアフレコしています。アン＝マーグレットは、ミュージカル映画への出演経験が豊富な歌手であり、本作でも素晴らしい歌声を披露しています。

音響システムには、QSクインタフォニック形式が採用されました。
サウンドトラック盤は、アメリカとイギリスでリリースされ、それぞれチャート2位と21位を記録しました。

オリジナルとの比較

オリジナルの舞台は第一次世界大戦でしたが、映画では第二次世界大戦に変更されています。それに伴い、曲名やストーリーの一部が変更されています。

オリジナルではウォーカー大佐が情夫を殺しますが、映画では逆に情夫のフランクがウォーカー大佐を殺します。

曲順も大幅に変更され、新曲や新歌詞の追加も行われました。

製作

映画化の計画は1968年からありましたが、資金不足や監督のスケジュールなどの問題で難航しました。1973年、ロバート・スティグウッドと契約を結び、ケン・ラッセル監督、ロジャー・ダルトリー主演で撮影が開始されました。

当初、ラッセルはロックに興味がありませんでしたが、オペラが好きだったため、ロンドン交響楽団の『トミー』に興味を持ち参加を決めたそうです。

配役

主人公トミー役は、当初からダルトリーが演じることが決まっていましたが、彼は演技経験がなく不安を感じていました。

ピンボールの魔術師役には、当初スティーヴィー・ワンダーにオファーを出しましたが、断られています。最終的にエルトン・ジョンが演じました。

アシッド・クイーン役は、当初デヴィッド・ボウイが演じる予定でしたが、最終的にティナ・ターナーが演じました。

名医役には、当初クリストファー・リーが希望されましたが、スケジュールが合わず、ジャック・ニコルソンが演じることになりました。

録音

1974年1月からレコーディングが開始されました。ザ・フーのメンバーに加え、多くのゲストミュージシャンが参加しました。

リードの歌唱が難航しましたが、最終的に見事な歌声を披露しました。

撮影

1974年4月に撮影が開始されました。撮影はトラブル続きでしたが、ダルトリーは危険な場面も吹き替えなしで演じきりました。

撮影は18週間にも及び、予算も大幅にオーバーしました。

評価

映画は公開後、おおむね好評を得ました。アン・マーグレットがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞しました。

一方、ピート・タウンゼントからは低い評価を受けています。

エピソード

物語の舞台を第1次大戦から第2次大戦に変えたのは、ケン・ラッセル監督でした。

情夫がトミーの父親を殺すという設定は、監督自身の父親に対する殺人願望に起因すると、タウンゼントは語っています。

「光を与えて」のシーンは、本物の教会で撮影されました。

エルトン・ジョンは、撮影で使った巨大ブーツを気に入り、撮影後に譲り受けました。

アン＝マーグレットの「シャンペン」のシーンの撮影には3日もかかりました。

南アフリカでは、「リスニング・トゥ・ユー」の歌詞が異教徒的だとしてカットされました。

ジョン・レノンは、この映画を「キース・ムーンが出ているから見る価値がある」と語ったそうです。

ソフト化

VHSやDVDで発売されています。DVDには、クインタフォニック音声に加え、DTS5.1chサラウンド音声も収録されています。

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