トミー・ボイス&ボビー・ハート

ボイス&ハート

トミー・ボイス（Tommy Boyce）とボビー・ハート（Bobby Hart）は、アメリカ合衆国の音楽界でソングライター、そして歌手としても大きな足跡を残したデュオです。彼らは特に、1960年代に人気を博したテレビ番組およびそこから生まれたバンド、「ザ・モンキーズ」のために数多くのヒット曲を書き下ろしたことで広く知られています。

個々の道のり

トミー・ボイスは、高校卒業後に軍隊での経験を経て、ロサンゼルスで歌手になる夢を追い始めました。彼のソングライターとしての才能は初期から開花し、1959年にはジョン・マラスカルコとの共作によるファッツ・ドミノの楽曲「ビー・マイ・ゲスト」が全米チャートで8位を記録する大ヒットとなりました。さらに1961年には、フィル・スペクターがプロデュースしたカーティス・リーの「プリティ・リトル・エンゼル・アイズ」が全米7位に達するなど、早くから成功を収めています。後年、彼は「トミー・バンド」を結成して音楽活動を続けましたが、闘病の末、1994年11月23日に自ら命を絶つという悲劇的な最期を遂げました。

一方、ボビー・ハートも音楽の世界に身を投じ、1961年には自身の名義で「ガール・イン・ザ・ウィンドウ」をリリースしています。この楽曲には、後にパートナーとなるボイスがギタリストとして参加していました。彼のソングライターとしての才能も評価され、1965年にはテディ・ランダッツォ、ボビー・ウェインスタインとの共作によるリトル・アンソニー＆ジ・インペリアルズの「ハート・ソー・バッド」がヒットを記録しています。

デュオとしての成功とモンキーズとの出会い

トミーとボビーは共同で楽曲制作を行うようになり、1964年にはチャビー・チェッカーの「レイジー・エルシー・モリー」（全米40位）、続いてジェイ＆ジ・アメリカンズの「もっと寄りそって」（全米3位）といったヒット曲を生み出しました。これにより、ソングライターチームとしての評価を確立していきます。

1965年、彼らは新たな機会を求め、テレビドラマ企画「ザ・モンキーズ」の主役バンドメンバーのオーディションに参加しました。しかし、残念ながら演者としては選ばれませんでした。その代わり、彼らの音楽的な才能は認められ、番組の音楽スタッフとして採用され、パイロット版の音楽を担当することになります。

この出会いが彼らのキャリアにおける転換点となります。1966年、彼らはポール・リヴィア＆ザ・レイダースに「ステッピン・ストーン」を、ザ・リーヴスに「恋の合言葉」を提供しました。これらの楽曲は後にモンキーズによってカバーされ、人気曲となります。

そして、1966年8月、彼らが作詞・作曲・演奏まで手掛けたモンキーズのデビューシングル「恋の終列車」が発売されると、同年11月には全米チャートで1位を獲得する大ヒットとなりました。さらに、同年9月に放送が開始されたドラマ「ザ・モンキーズ」の主題歌「モンキーズのテーマ」の作詞・作曲も担当し、番組の成功に不可欠な音楽的要素を提供しました。

自身のアーティスト活動

モンキーズへの楽曲提供で成功を収める傍ら、ボイス＆ハートは自らもアーティストとして活動を開始します。1967年にはA&Mレコードからデュオとしてデビューを果たし、シングル「アウト・アンド・アバウト」が全米39位にチャートインしました。同年12月には「あの娘は今夜」をリリースし、翌1968年2月には全米8位まで上昇するヒットとなりました。さらに1968年8月には「アリス・ロング」も全米27位を記録するなど、ソングライターとしてだけでなく、パフォーマーとしてもその存在感を示しました。

1969年には、当時の選挙権年齢引き下げ運動「Let Us Vote」のためにキャンペーンソング「L.U.V. (Let Us Vote)」を制作、リリースするなど、社会的なメッセージを持つ活動も行っています。また、自主レーベル「アクエリアン」を設立し、シングル「風にくちづけ」を発表しました。この楽曲は、1970年2月に放送された人気ドラマ「奥さまは魔女」にゲスト出演した際に披露され、話題となりました。

その後の活動とレガシー

1975年には、かつて彼らが楽曲を提供したモンキーズのメンバーだったミッキー・ドレンツとデイビー・ジョーンズと共に、「ドレンツ、ジョーンズ、ボイス＆ハート」を結成しました。これは事実上のモンキーズ再結成として注目を集め、翌1976年には来日公演も行っています。

ボイス＆ハートは、1960年代のアメリカン・ポップスシーンにおいて、特にティーンエイジャー向けの音楽番組という新しいメディアを通じて、質の高い楽曲を提供した先駆者と言えます。彼らがモンキーズに提供した楽曲は、単なるアイドルグループの曲としてだけでなく、今なお多くの人々に愛されるスタンダードとなっています。ソングライターとしても、パフォーマーとしても、彼らはその才能を遺憾なく発揮し、ポップス史にその名を刻んでいます。

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