トヨタ・TZエンジン

トヨタ・TZエンジンは、トヨタ自動車が1990年代に製造した水冷直列4気筒ガソリンエンジンの一群です。このエンジン系列は、特に初代エスティマ系車両のために開発された点が最大の特徴です。

開発背景と特徴

TZエンジンの開発は、初代エスティマが採用した独特な車両構造と密接に関わっています。当時のミニバンとしては画期的だった「アンダーフロア型ミッドシップレイアウト」を実現するため、エンジン本体を床下に搭載する必要がありました。これにより、室内空間を最大化し、同時に車両の低重心化を図るという革新的なパッケージングが可能となったのです。

TZエンジンは、トヨタの既存エンジン系列であるRZ型をベースに設計されました。しかし、床下搭載という特殊な要求に応えるため、エンジンの物理的な高さや振動、騒音といった面で、RZ型から多くの変更や改良が加えられています。エンジンを斜めに配置するなど、限られたスペースに収めるための工夫も凝らされました。この特定の車両構造への適合性が、TZエンジンを他のトヨタエンジン系列から際立たせる要因となっています。

生産と系譜

TZエンジンの国内向け生産は、初代エスティマの発売とほぼ同時期にあたる1990年 4月に開始されました。初代エスティマ系がモデルライフを終える1999年 10月までの約9年半にわたり製造が続けられました。初代エスティマ系専用エンジンであったため、その生産終了に伴いTZエンジン系列も発展を終え、トヨタの新たなエンジン系列であるAZ型に統合される形となりました。形式的な後継エンジンとしては、その後登場するTR型エンジンが位置づけられています。

主な型式

TZエンジン系列には、主に自然吸気仕様と過給器（スーパーチャージャー）仕様の二つのバリエーションが存在します。

2TZ-FE

自然吸気タイプの「2TZ-FE」は、TZエンジン系列の基幹となるモデルです。仕様はDOHC（ダブルオーバーヘッドカムシャフト）16バルブを採用し、電子制御燃料噴射装置（EFI）を備えています。総排気量は2.438リットル。ボア（内径）95.0mm、ストローク（行程）86.0mmという、内径が行程より大きいショートストローク寄りの設計となっています。圧縮比は9.3です。

この仕様から、参考出力として99kW（日本馬力換算で135ps）を5,000回転/分で、最大トルクとして206Nm（同21.0kgm）を4,000回転/分で発生しました。このエンジンは、初代エスティマの標準グレードに加え、姉妹車であるエスティマエミーナやエスティマルシーダの主要エンジンとして幅広く搭載されました。（搭載車両型式例: TCR10W/11W/20W/21W, TCR10G/11G/20G/21Gなど）

2TZ-FZE

「2TZ-FZE」は、2TZ-FEをベースにスーパーチャージャーを追加した高性能モデルです。吸気系にはインタークーラーが装備され、過給された空気の温度を下げることで充填効率を高めています。排気量は2TZ-FEと同じく2.438リットルですが、スーパーチャージャーによる過給に対応するため、圧縮比は8.9とやや低く設定されています。

過給器の効果により、出力とトルクは大幅に向上しています。参考出力は118kW（160ps）を5,000回転/分で、最大トルクは258Nm（26.3kgm）を3,600回転/分で発生しました。特に、スーパーチャージャーが低回転域から効果を発揮するため、車両総重量の大きいミニバンにおいても、スムーズで力強い加速性能を実現しました。このエンジンは主に初代エスティマのスーパーチャージャー搭載グレードに採用されました。（搭載車両型式例: TCR10W/11W/20W/21Wなど）

まとめ

トヨタ・TZエンジンは、初代エスティマという特定のモデルの革新的な設計思想を実現するために生まれた、役割が明確なエンジン系列でした。アンダーフロアミッドシップという挑戦的なレイアウトを成立させるための技術的課題をクリアし、自然吸気およびスーパーチャージャー仕様で、その車両の動力性能を支えました。生産期間は初代エスティマのモデルライフと連動していましたが、トヨタが特定の目的に合わせてエンジンを開発する能力を示す例として、自動車技術史において一定の存在感を示しています。

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