トラノオシダ

トラノオシダの概要

トラノオシダ（地柏葉、Asplenium incisum Thunb.）は、シダ植物門に属するチャセンシダ科のシダである。このシダは、細長く分かれた柔らかい葉が特徴で、小型の植物である。トラノオシダは、特に石垣などの乾燥した場所でよく見られ、多くの場合、街中のコンクリート表面でも生育している。

特徴

トラノオシダの茎は非常に短く、通常は多数の葉を持つ。葉の長さはいくつかの条件に左右されるが、標準的にはおおよそ20cm程度で、成長にともなって二回羽状複葉になることもある。乾燥した場所では葉のサイズは約10cm程度にとどまるが、理想的な環境では50cmに達することもある。葉の形状は細長い楕円形であり、葉の基部は褐色ですが、ほとんどが柔らかな緑色をしており、葉は次第に下へ垂れ下がる。

また、胞子のう群は葉の裏側に数個ずつ配置され、長楕円形をしていて、中心からやや寄った位置にあるのが特徴である。

生育環境

このシダは山間部の岩場やガレ場、さらには人里の石垣のような場所で幅広く見られるが、特に農村の畑の石垣では普通に観察できる。都市部でも比較的見かけることがあり、通常は見落とされがちな存在である。しかし、トラノオシダはその外見が小さく、繁茂しないため、一般的な知名度は低い。

トラノオシダの名称の由来は、細く長い葉の形状が虎の尾に似ていることから来ていると考えられている。同様に、植物名には「トラの尾」といった名称が多く使われている。

日本全土に分布するトラノオシダだが、その範囲は中国、朝鮮、台湾、シベリア東部にも及ぶ。さらに、葉が細かく切れ込んだチリメントラノオシダや、斑が入ったフイリトラノオシダという二つの品種も報告されているが、これらはあまり広く認識されていない。

利害関係

トラノオシダは農村の環境において雑草と見なされることもあるが、実際には繁茂せず、駆除が必要とされることはほとんどない。日本では、石垣に生えるシダや苔が鑑賞価値を認められ、駆除されない傾向が強いが、トラノオシダについてはその風情があまり認識されていないようである。

類似種

トラノオシダに似た種はあまり存在しないが、イヌシダは外見や生育環境が近く、一目で見分けることができる。イヌシダは葉に長い毛が生えており、そのため簡単に区別がつく。一方、チャセンシダ属のイワトラノオ（A. tenuicaule Hayama）は類似した外見を持つが、その葉の形状は広披針形であり、トラノオシダとは異なる。また、ヒメイワトラノオ（A. capillipes Makino）はさらに小型で、葉が地表に寝た形で生育する。

参考文献

• - 岩槻邦男編『日本の野生植物　シダ』（1992年）平凡社
• - 光田重幸『しだの図鑑』（1986年）保育社

このように、トラノオシダは、その独特の形状と環境での存在感に反して、一般にはあまり注目されない存在ではあるが、観察や研究において興味深い植物と言えるだろう。

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