トリコテセン

トリコテセン類の概要

トリコテセン類（英: trichothecenes）は、主にカビによって生成されるマイコトキシンの一種で、毒性を持つセスキテルペンで約100種存在します。これらの毒素は特にムギ赤かび病と関連しており、ヒトや家畜に対し重大な中毒を引き起こすことがあります。さらに、トリコテセン類は無脊椎動物や植物にも害を及ぼすことがありますが、必ずしもカビだけが産生するわけではなく、たとえばカエンタケと呼ばれるキノコにも含まれています。

化学構造

トリコテセン類の基本的な化学構造は、酸素原子を含む6つの原子のリングが中央にあり、それを囲む2つの炭素環から成り立っています。この化合物は12,13-位にエポキシド、9-位に二重結合を持つ構造から始まり、これをコア構造と呼びます。この基本構造に基づいて、トリコテセン類は4つのタイプ（A、B、C、D）に分類されます。

• - タイプA: 8位に置換基がないか、水酸基またはエステル結合があるもの（例: ネオソラニオール、T-2トキシン）。
• - タイプB: 8位がカルボニルとなっているもの（例: デオキシニバレノール）。
• - タイプC: 7,8位がエポキシドのもの（例: クロトシン）。
• - タイプD: 4位から15位の間に大きな環を持つもの（例: サトラトキシンH）。

生合成

トリコテセン類の生合成は、まずファルネシル二リン酸がテルペン環化酵素の働きによってトリコジエンに変わることから始まります。その後、シトクロムP450の働きによって酸素原子が導入されるプロセスが進み、最終的に各種のトリコテセン類が合成されます。特にフザリウム属においては、イソトリコトリオールからコア構造の作成が行われ、その後様々な修飾を経て多様なトリコテセン類が生成されます。生合成に関わる遺伝子群は隣接した遺伝子クラスタとして構成されることが多く、フザリウム属ではこれらの遺伝子は3つの主要な遺伝子クラスタに分かれて存在することが一般的です。

発生地域

トリコテセンは、穀物などの植物に生えるカビの中から広範囲にわたって発見されています。これらのカビは、ロシアやフランス、ブラジル、インド、カナダなどの冷帯から熱帯の地域で見られ、食中毒の原因として知られています。

主な生産菌

トリコテセン類を主に生産するのは、フザリウム属の菌です。これには、Fusarium graminearum、F. culmorum、F. sporotrichioides、F. poae、F. equisetiなどがあります。同じ属の菌は、ゼアラレノンやフモニシンなどの他のマイコトキシンを生成することがあるため、重複汚染がしばしば発生します。カエンタケもトリコテセンを生成することがありますが、これはフザリウム属に近い関係にあります。

毒性と影響

トリコテセン類の毒性は非常に強力で、特にタイプAのT-2トキシンが最も危険です。これらは皮膚や粘膜から吸収されたり、粉塵を吸入したり、食品を摂取することによって体内に入ります。主な急性症状としては、腹痛、下痢、嘔吐、脱力、発熱などがあり、場合によっては重症の病状を引き起こしえます。動物実験では、免疫系の機能障害や発がんのリスクも示唆されています。植物においては、葉の形態の変化や根の成長制限が観察されています。

汚染と対策

かつて日本では、戦後の食糧難の際に、東南アジアから輸入された米がカビに汚染されていたことで、数十万トンの米を廃棄する事態が起きました。また、世界のさまざまな地域でトリコテセン類によって食中毒が発生した事例が報告されています。それに対抗するためには、農作物の生産段階での適切な農薬の使用や迅速な乾燥、衛生管理が重要です。また、赤カビに抵抗力のある品種の開発も進められています。

代表的な規制値

トリコテセン類に関する国際的な基準も設けられており、例えばT-2トキシンについてはEUが設定した基準で食品は100ppb、飼料は100～1000ppbとされています。デオキシニバレノールに関しては、日本では暫定基準値として1.1ppmが設定されています。このような規制は食品の安全性を確保するために非常に重要です。

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