シトクロムP450

シトクロムP450：生命活動を支える多様な酵素

シトクロムP450（CYP）は、ヘム鉄を含む酸化還元酵素ファミリーの総称であり、生物の生命活動に必須な多様な反応に関与しています。肝臓での解毒作用が最も有名ですが、ステロイドホルモンの生合成、脂肪酸代謝、植物の二次代謝など、その機能は多岐に渡ります。

シトクロムP450の構造と命名

CYPは、約500個のアミノ酸残基から構成され、活性中心にヘムを持つのが特徴です。ヘム鉄にはシステイン残基と水分子が配位していますが、基質が結合すると水分子が離れ、酸素が結合できるようになります。このヘム鉄の酸化還元反応が、CYPの触媒作用の根幹を成しています。

一酸化炭素と結合した還元型CYPは、450nmの波長で光の吸収を示すことから、1964年に「ピグメント450」と命名されました。

CYPはアミノ酸配列の相同性に基づき分類され、40%以上の相同性を示すものをファミリー、55%以上の相同性を示すものをサブファミリーとして分類します。「CYP1A1」のように表記され、最初の数字がファミリー、アルファベットがサブファミリー、最後の数字が特定のタンパク質を示します。

シトクロムP450の多様な機能

1. 異物代謝（解毒作用）

CYPは、脂溶性で毒性を持つ異物（薬物、環境ホルモンなど）を水酸化し、水溶性にして体外へ排泄しやすくする役割を担います。しかし、発癌性物質によっては、CYPによる水酸化によって逆に発癌性が上昇するケースも知られています。

2. 薬物相互作用

CYPは薬物代謝にも関与するため、薬物相互作用を引き起こす可能性があります。グレープフルーツジュースに含まれる成分はCYP3A4を阻害し、薬物の代謝を遅らせることで副作用を増強する可能性があります。一方、セイヨウオトギリソウはCYP3A4を誘導し、薬物の代謝を促進する作用があります。また、CYP2D6などの遺伝的多型によって、薬物代謝速度に個人差が生じることも知られています。

3. ステロール生合成

CYP51は、すべての生物種に存在する最も基本的なCYPと考えられており、ステロール生合成の重要な酵素です。真菌ではエルゴステロール合成に関与するため、CYP51阻害剤は抗真菌薬として利用されています。動物においても、エストロゲン合成に関わるCYP19（アロマターゼ）など、ステロイドホルモン合成に重要なCYPが存在します。

4. 転写調節

CYP1～CYP4ファミリーの酵素の発現は、薬物などがリガンドとして作用する受容体によって制御されています。具体的には、CYP1ファミリーはAhR、CYP2ファミリーはCAR、CYP3ファミリーはPXR、CYP4ファミリーはPPARαといった受容体がそれぞれ関与し、遺伝子発現を制御しています。

まとめ

シトクロムP450は、解毒からホルモン合成、薬物代謝まで、生物の生命活動に不可欠な多様な機能を担う酵素ファミリーです。その機能の複雑さと多様性ゆえに、薬物相互作用や疾患発症との関連も深く、今後の研究が期待されています。

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