トリニティ・ハウス

トリニティ・ハウス：イギリス海事史を彩る灯台と水先人の守護者

トリニティ・ハウス(Trinity House)は、イギリス王室認可の民間機関でありながら、公共機関としての役割を担う独特な存在です。その正式名称は『The Master Wardens and Assistants of the Guild Fraternity or Brotherhood of the most glorious and undivided Trinity and of St. Clement in the Parish of Deptford Strond in the County of Kent』と長く、その歴史と多様な活動を表しています。

トリニティ・ハウスの三つの柱

トリニティ・ハウスは大きく分けて三つの重要な役割を担っています。

1. 灯台管理機関: イングランド、ウェールズ、チャネル諸島、ジブラルタルの灯台、灯台船、ブイ、そして海上無線・衛星通信システムなど、航海安全に不可欠な航路標識の維持管理を主な業務としています。これらの設備の整備・保守を行い、安全な航海を支援しています。
2. 水先人協会: 北ヨーロッパ海域を航行する船舶に対し、熟練した水先人を提供しています。水先人とは、その海域に精通した専門家で、船舶の安全な入出港を支援する役割を担います。トリニティ・ハウスは、水先人に免許を発行し、その質の高いサービスを保証しています。
3. 海事慈善団体: 退役船員の福祉向上や、若い船員候補生の育成、そして海洋安全の推進に尽力しています。寄付金や資金援助を通じて、海事関係者の生活支援や人材育成、安全な海の維持に貢献しています。

財源と運営

灯台サービスのための費用は、主に「灯台税」によって賄われています。これは、イギリス諸島に寄港する商業船舶の登録トン数に基づいて課せられる税金であり、運輸省によって金額が毎年設定されます。慈善事業活動のための資金は、灯台税とは別に、寄付金などを通して調達されます。

Master of the Corporation

トリニティ・ハウスの長であるMaster of the Corporationは、歴史的にイギリスで著名な人物が務めてきました。現在は名誉職となっていますが、過去にはサミュエル・ピープス、小ピット、アーサー・ウェルズリーといった歴史的名士や、ウィンストン・チャーチルなどがその職に就いています。多くのMasterは、海運業やイギリス海軍と関わりを持つ人物であり、トリニティ・ハウスとイギリスの海事史の深い繋がりを示しています。チャーチルは第二次世界大戦中、トリニティ・ハウスの制服を着用するほど、その機関との結びつきが強かったと言われています。トリニティ・ハウスには、彼の名を冠した船舶も存在します。

歴史と起源

トリニティ・ハウスは、1514年にヘンリー8世によって勅許を与えられ設立されました。その名称は、ケント州デプトフォード・ストランド教区の船乗りたちが、組合設立を願い出たこと、そしてその教区の守護聖人である聖クレメントと三位一体（Holy Trinity）に由来しています。初代Masterは、後にSirの称号を得たThomas Spertでした。テムズ川における船乗りの無法行為を抑制し、安全な航海を確保するための組織として、その歴史は始まりました。

商船旗

トリニティ・ハウスの商船旗は、赤い旗地に聖ゲオルギウス十字（白い十字）と帆船が描かれたレッド・エンサインです。Master of the Corporationと副Masterは、それぞれ異なる旗を使用します。

関連機関

トリニティ・ハウスは、イギリス沿岸警備隊、国際航路標識協会、北部灯台協会（スコットランドとマン島）、アイルランド灯台委員会といった機関と密接に連携し、イギリス周辺海域の航海安全に貢献しています。また、ペンザンスにあるトリニティ・ハウス国立灯台博物館は、その歴史と活動を伝える貴重な施設となっています。

トリニティ・ハウスは、500年以上に渡り、イギリスの海事安全と発展に貢献し続けている由緒ある機関です。その歴史と伝統は、現代においても、安全な航海と船員の福祉を守る重要な役割を担っています。

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