トリポリ (レバノン)

レバノン第二の都市、トリポリ：歴史と現代の狭間で

レバノン北部の北レバノン県に位置するトリポリは、ベイルートに次ぐ同国第二の都市であり、古くから栄えた重要な港湾都市です。アラビア語ではタラーブルスと呼ばれ、地中海沿岸に広がるその美しい景観は、歴史と現代が複雑に絡み合う独特の雰囲気を醸し出しています。人口約50万人、住民の8割はスンニ派ムスリムが占めています。

栄光と破壊の歴史

トリポリは、古代から東地中海有数の富裕な港として繁栄しました。かつては「知識の館」と呼ばれた大図書館が存在し、学問の中心地として知られていました。しかし、第1回十字軍の侵攻によって陥落し、十字軍国家トリポリ伯領となります。その後、1289年にマムルーク朝によって破壊されるまで、数度に渡って十字軍の拠点やイタリア商人たちの交易の中心地として重要な役割を果たしました。

レバノン内戦においても、ベイルート南部のような大規模な破壊は免れましたが、その影響はトリポリにも及んでいます。1103年に建設されたセント・ジル要塞をはじめとする数々の遺跡は、激動の歴史を物語る重要な史跡となっています。

2012年には、隣国シリアの内戦が宗教対立という形でトリポリに波及。アラウィー派とスンニ派の衝突が発生し、多数の死傷者を出しました。2020年には、レバノン経済危機による通貨暴落や物価高騰がトリポリ市民の生活を直撃。デモが激化し、銀行襲撃などの事件も発生しました。

近代建築の傑作：ラシード・カラーミー国際見本市複合施設

トリポリの近代化政策の一環として、1962年から1967年にかけて建設されたラシード・カラーミー国際見本市複合施設は、ブラジルの建築家オスカル・ニーマイヤーによる設計です。70ヘクタールもの広大な敷地に、750メートル×70メートルの巨大な屋根付きホールを中核とした、独特なデザインの建物が立ち並びます。「ブラジルの熱帯庭園」と呼ばれる庭園や、ポルチコ、水プール、円形劇場なども備えた、近東における20世紀近代建築の代表作と言える施設です。

レバノン内戦によって施設は荒廃しましたが、その普遍的な価値は高く評価され、2023年の世界遺産委員会臨時会議で世界遺産（危機遺産）に登録されました。登録基準は、「建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの」と「人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例」の2点です。

交通と未来

トリポリにはかつて、タウルス急行が発着するトリポリ駅が存在しましたが、内戦によって1975年に廃駅となっています。現在、トリポリの交通網の整備は課題となっています。

歴史、文化、そして近代建築が混在するトリポリは、その複雑な歴史と現状を乗り越え、未来に向けて歩みを進めています。世界遺産登録を機に、その保護と発展が期待されています。

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