アラウィー派

アラウィー派：複雑な歴史と教義を持つシリアの宗教集団

アラウィー派は、イスラム教シーア派の一分派とされる宗教集団です。シリア、トルコ南東部、レバノンなどに信徒が分布し、特にシリアのラタキア背後の山岳地帯に多く居住しています。

名称の変遷と混同

アラウィー派は、近代以降の名称です。それ以前は、創始者とされるヌサイルにちなみ、ヌサイリー派と呼ばれていました。日本の学界では、19世紀以前のアラウィー派をヌサイリー派と呼ぶ慣例がありますが、ヌサイリー派は、他派のムスリムから見た侮蔑的なニュアンスを含む呼称です。オスマン帝国時代には、農民を意味する言葉としても使われていました。アラウィー派は、トルコのアレヴィー派と混同されることもありますが、両者は別個の集団です。

独特の教義

アラウィー派の教義は、イスマーイール派、マズダク教、マニ教、キリスト教、そしてシリア地方の土着宗教の要素が融合した独特のものです。キリスト教の影響が特に大きく、パンとワインを用いる聖餐儀礼や、クリスマスなどのキリスト教の祭日を祝う習慣があります。両親が共にアラウィー派の男子のみが教義を学ぶことができ、教義の外部への漏洩は厳しく禁じられています。輪廻転生思想を持ち、女性には魂がないとされ、宗教儀礼からは排除されています。断食や喜捨、巡礼といったイスラム教の五柱のうち、一部の行為は行いません。

シーア派との関係とキリスト教との共通点

1973年、レバノンの十二イマーム派のイマーム、ムーサー・アッ＝サドルが、アラウィー派をシーア派の一派と見なすファトワーを発布しました。しかし、現在でも異端視する向きは存在します。アリー・イブン・アビー・ターリブを崇敬する点はシーア派と共通していますが、シーア派のどの分派から分派したかは不明です。キリスト教との共通点としては、三位一体的な思想や、聖人たちを崇拝する習慣などが挙げられます。

歴史と迫害

アラウィー派の起源は9世紀ごろのイラクに遡るとされますが、正確な起源は不明です。10世紀にはシリア地方に定着しましたが、スンナ派などから迫害を受け、海岸山脈に逃れました。オスマン帝国時代には、非ムスリムとみなされ、ジズヤを納める義務がありました。スンナ派からの差別や迫害は長く続き、信仰を隠すタキーヤが実践されることもありました。

フランス委任統治とシリア独立後

第一次世界大戦後、フランスの委任統治時代には、アラウィー派はフランスに協力することで自治権を獲得しました。しかし、シリア独立後はスンナ派が主導権を握り、アラウィー派は再び迫害を受けました。軍隊への入隊を通じて、アラウィー派は徐々に政治・軍事的な影響力を強めていきました。

アサド政権とシリア内戦

1970年以降のアサド政権下では、アラウィー派はシリアの政治・軍事の中枢を占めるようになりました。ハーフィズ・アル＝アサド大統領は、アラウィー派のイスラム化を推進しました。しかし、2011年に勃発したシリア内戦では、アサド政権に対する反政府勢力の攻撃により、アラウィー派は深刻な危機に直面しています。内戦は、アラウィー派とスンナ派を中心とした宗教・民族間の対立を背景に、複雑な国際情勢と絡み合い、現在も続いています。

アラウィー派の分布と著名人

アラウィー派はシリアの地中海沿岸部に集中して分布しており、ラタキアやタルトゥースが重要な都市です。レバノンやトルコにも居住しています。著名人としては、アサド家の人物や、ザキー・アル＝アルスーズィーなどの哲学者、アドニスなどの詩人が挙げられます。

まとめ

アラウィー派は、独自の教義と複雑な歴史を持つ宗教集団です。長年にわたる迫害と、現代シリアにおける政治的・軍事的な役割は、アラウィー派のアイデンティティと未来を複雑にしています。シリア内戦の終結と、アラウィー派を含むシリア社会の安定した未来を願うばかりです。

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