トリュフォーの思春期

トリュフォーの視点から描かれる子供たちの日常

『トリュフォーの思春期』（原題：L'Argent de poche）は、1976年に公開されたフランス映画で、巨匠フランソワ・トリュフォー監督による作品です。原題は「おこづかい」を意味し、子供たちの日常を切り取った本作の内容を象徴しています。この映画は、思春期前の子供たちの目を通して、社会の様々な側面を映し出しています。

子供たちの無邪気さと社会の現実

物語の舞台は、フランスの小さな町ティエールにある小学校。パトリック、ブルーノ、ローラン、クローディオ、フランクといった子供たちのクラスに、ジュリアンという少し陰のある少年が転校してきます。子供たちはすぐにジュリアンと打ち解け、テレビドラマ「刑事コロンボ」の話で盛り上がります。彼らは時に映画館に無銭入場したり、友達の髪をでたらめに切ったりと、やんちゃな毎日を送っています。

クラス担任のリシェ先生が住むアパートでは、子供たちの日常がユーモラスに描かれます。好奇心旺盛なグレゴリー坊やがペットの猫を追いかけてベランダから落ちそうになったり、反抗期のシルビーが家族との食事を拒否し、部屋に閉じ込められてしまったりと、子供たちの周りはいつも騒がしいです。そんな中、思春期を迎えたパトリックは、友達の母親に恋をし、お小遣いをはたいてバラを贈りますが、彼女からは「お父さんにありがとうって伝えて」と言われてしまいます。

ある日、学校の身体検査で、服を脱ぎたがらないジュリアンの体に無数の痣があることが発覚します。児童虐待が疑われ、学校側は警察に通報、ジュリアンの母親と祖母は逮捕されます。この事件をきっかけに、リシェ先生は生徒たちに「人生は生易しいものではない、強く心を持ちなさい」と語りかけます。そして、待ちに待った夏休み、子供たちは林間学校で楽しい時間を過ごし、パトリックはそこでマルティーヌという女の子と出会い、ファーストキスを経験します。こうして子供たちは、少しずつ大人への階段を上っていくのです。

トリビュートとパロディ

映画の中には、トリュフォー監督ならではの遊び心も散りばめられています。例えば、映画の冒頭に登場するマルチーヌの父親役は、トリュフォー自身が演じています。また、パテ社風のニュース映画に登場する「口笛吹のオスカル」は、ジャン・ルノワール監督の『フレンチ・カンカン』に登場する口笛吹きのピエロのパロディです。さらに、オスカルの母親の名前「マドレーヌ・ドワネル」は、トリュフォーの前妻マドレーヌ・モルゲンステルヌと、自身の代表作『大人は判ってくれない』の主人公アントワーヌ・ドワネルを組み合わせたもので、この役はトリュフォーとマドレーヌの娘であるローラ・トリュフォーが演じています。また、パトリシア役のエヴァ・トリュフォーも実の娘です。

グレゴリー坊やが10階から落ちて助かったというエピソードは、実際にあったニュースを元にしています。アパートの11階、25メートルの高さから落ちたミミール坊やが軽い骨折だけで助かり、「ミミールどしんしちゃった」と言ったという実話です。ミミールは、フランス政府から「最も強いフランス人」として表彰されました。さらに、パトリックが同級生の母親に恋をしてバラを贈るエピソードは、劇作家のサシャ・ギトリの少年時代の体験からヒントを得ています。

子供たちの成長を見守る視点

『トリュフォーの思春期』は、子供たちの無邪気な日常を描きながらも、社会問題や子供たちの成長を繊細に捉えた作品です。トリュフォー監督の優しい視点が、子供たちの純粋さや脆さを際立たせ、観る人に深い感動を与えます。子供たちの何気ない日常を通して、人生の喜びや悲しみを教えてくれるこの映画は、多くの人々に愛され続けています。

この映画は、子供たちの日常を描いた作品であると同時に、大人の世界を映し出す鏡のような存在でもあります。子供たちの無邪気さや純粋さを通して、私たち大人は、忘れかけていた大切な何かを思い出すことができるかもしれません。

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