トルコ5人組

トルコ5人組（Türk Beşleri）

トルコ共和国の近代音楽史において、重要な役割を果たした作曲家グループが「トルコ5人組」（Türk Beşleri）です。彼らは、20世紀の最初の10年間に生を受けた5人の音楽家であり、トルコにおけるクラシック音楽の創成期を担い、その基盤を確立した開拓者として位置づけられています。

彼らが創作活動を行ったのは、トルコ共和国が誕生し、建国されたばかりの国家が急速な近代化と西洋化を推し進めていた時期です。特に、初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルク、そしてその後のイスメト・イノニュが大統領を務めた時代は、政治体制だけでなく、文化や芸術の分野でも大きな変革が求められていました。国家は、西洋の進んだ文化や技術を積極的に取り入れつつ、トルコ独自のアイデンティティを確立しようとしていたのです。

「トルコ5人組」は、まさにこうした時代の要請に応える形で登場しました。彼らは、ヨーロッパで専門的な音楽教育を受けながらも、トルコ固有の音楽文化や旋律、リズムへの深い理解を持っていました。彼らの使命は、西洋の音楽技法を用いて、トルコの伝統的な音楽要素を融合させた、新しい国民的なクラシック音楽を創造することでした。これにより、トルコ国民の心に響き、同時に国際的な舞台でも通用する普遍性を持つ音楽を生み出そうと試みたのです。

彼らの活動は、当時のアタテュルク、イノニュ両大統領から強力な支援を受けました。両大統領は、トルコの近代化には文化的な側面からの貢献が不可欠であると考え、芸術家、特に西洋音楽に取り組む作曲家たちに大きな期待を寄せていました。トルコ5人組は、大統領たちと直接的に交流する機会を与えられ、彼らの芸術活動がトルコ国家の近代化プロジェクトの一環として位置づけられていることを強く認識し、創作へのモチベーションを高められました。この国家的な後押しは、彼らがトルコ国内で新しい音楽文化を根付かせる上で重要な役割を果たしました。

「トルコ5人組」として称される作曲家は以下の5人です。

アフメト・アドナン・サイグン（Ahmet Adnan Saygun）
ウルヴィ・ジェマル・エルキン（Ulvi Cemal Erkin）
ジェマル・レシット・レイ（Cemal Reşit Rey）
ハサン・フェリット・アルナル（Hasan Ferit Alnar）
* ネジル・カズム・アクセス（Necil Kazım Akses）

彼らはそれぞれ独自の音楽的スタイルを持っていましたが、トルコの音楽的伝統と西洋のクラシック音楽の統合という共通の目標に向かって精力的に活動しました。交響曲、協奏曲、オペラ、バレエ音楽、室内楽、歌曲など、彼らの作品は多岐にわたり、トルコのコンサートホールや劇場で頻繁に上演され、国民に新しい音楽体験をもたらしました。また、彼らは教育者としても活躍し、トルコにおける音楽教育機関の発展にも貢献しました。

「トルコ5人組」という名称は、フランスの作曲家グループ「フランス6人組」になぞらえて名付けられたとも言われますが、彼らの功績は単なる外国の例を模倣しただけではありません。彼らは、トルコの豊かな音楽遺産を現代的なクラシック音楽の語彙で再構成し、トルコ人としてのアイデンティティを音楽で表現する道を切り開いたのです。彼らの活動は、その後のトルコ人作曲家たちに大きな影響を与え、トルコにおけるクラシック音楽の伝統を確固たるものとしました。トルコ共和国の近代化という歴史的潮流の中で、音楽を通じて国家の文化的な発展に寄与した重要な音楽家たちとして、トルコ5人組の業績は今なお高く評価されています。

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