アフメト・アドナン・サイグン

アフメト・アドナン・サイグン

アフメト・アドナン・サイグン（Ahmet Adnan Saygun、1907年9月7日生 - 1991年1月6日没）は、トルコの近現代音楽を代表する作曲家であり、優れた音楽学者でもありました。トルコ共和国建国期の近代音楽確立に貢献した作曲家グループ「トルコ5人組」の一人として知られ、ジェマル・レシット・レイ、ハサン・フェリット・アルナル、ウルヴィ・ジェマル・エルキン、ネジル・カズム・アクセスと共に、トルコ独自の芸術音楽の発展に尽力しました。その功績は国家にも認められ、1971年には国家芸術家に指定されています。

来歴と教育

サイグンはイズミルに生まれ育ちました。幼少期、彼の故郷ではオスマン帝国軍楽隊による室内楽アンサンブルがしばしば西洋音楽を演奏しており、これが彼の音楽への初期の関心に影響を与えたと言われています。また、数学教師であり宗教学者でもあった父親からは、早くから英語やフランス語といった外国語に加え、世界の様々な宗教に関する知識を教わりました。サイグンはこうした家庭での教育を基盤に自己研鑽を重ね、フランスの大百科事典に収められた音楽に関する記述を選び出し、トルコ語に翻訳する作業も行いました。高校時代も家庭教師の指導を受けながら音楽学習を継続し、卒業から2年後の1926年には、早くも高校の音楽教師として教鞭を執り始めました。

音楽家としての研鑽を積むため、サイグンは1928年から1931年にかけてパリへ留学します。この期間、彼はスコラ・カントルムで学び、ヴァンサン・ダンディから作曲を、ユージン・ボレルから対位法と和声の指導を受けました。欧州でのアカデミックな音楽教育を受けた経験は、その後の彼の作曲活動に深く影響を与えました。

活動と業績

トルコに帰国後、サイグンは教育者としてのキャリアを本格化させます。1936年からはアンカラ音楽院で作曲を教え、後進の指導にあたりました。教育活動と並行して、彼は音楽学者としても活発に活動しました。1955年には民俗学研究所を設立し、トルコの豊かな民俗音楽の研究に力を注ぎました。1964年からはイスタンブール音楽院で音楽民族学を教え、自身の研究成果を教育の場に還元しました。トルコの伝統音楽、特に民俗音楽への深い理解は、彼の作曲においても重要な要素となりました。

サイグンの作品は、オペラ、交響曲、協奏曲、室内楽、ピアノ曲、歌曲など、多岐にわたります。その作風は、欧州で培った古典的な形式や技法と、トルコの民俗音楽に由来する旋律やリズム要素を巧みに融合させたものです。特にピアノ曲には「アクサク・リズム」と題された作品が多く、これはトルコの伝統音楽に特徴的な不規則なリズム構造を取り入れたものです。

主な作品

サイグンの主要な作品には以下のようなものがあります。

オペラ
オズソイ op.9 (1934)

交響曲
交響曲第1番 op.29 (1953)
交響曲第2番 op.30 (1958)
交響曲第3番 op.39 (1960)
交響曲第4番 op.53 (1976)
交響曲第5番 op.70 (1985)

管弦楽曲
ディヴェルティメント op.1 (管弦楽、サクソフォーンとダラブッカのための) (1930)
魔法の踊り op.13 (1934)
組曲 op.14 (1936)
ハライ op.24 (1943)
管弦楽のための変奏曲 op.72 (1985)

協奏曲
ピアノ協奏曲第1番 op.34 (1958)
ピアノ協奏曲第2番 op.71 (1985)
ヴァイオリン協奏曲 op.44 (1964)
ヴィオラ協奏曲 op.59 (1976-77)
チェロ協奏曲 op.74 (1987)

室内楽曲
パーカッション四重奏曲 op.8 (1933)
チェロソナタ op.12 (1935)
ヴァイオリンソナタ op.20 (1941)
弦楽四重奏曲第1番 op.27 (1947)
弦楽四重奏曲第2番 op.35 (1957)
弦楽四重奏曲第3番 op.43 (1966)
4台のハープのための3つのフォークソング Op.68 (1983)
弦楽四重奏曲第4番 op.77 (1990)（未完）

ピアノ曲
ソナティナ op.15 (1938)
アクサク・リズムによる10の練習曲集 op.38
アクサク・リズムによる前奏曲集 op.45 (全12曲)
アクサク・リズムによる小品集 op.47 (全15曲)
アクサク・リズムによるスケッチ op.56 (全10曲)
バラード op.56
3台のピアノのための詩曲 op.73
2台のピアノのための詩曲 op.76
ピアノソナタ op.77

歌曲
3つのバラード Op.32 (1955)
4つのメロディー Op.48 (1977)

サイグンはトルコにおける芸術音楽の発展に決定的な役割を果たした人物であり、その作品と教育・研究活動は、今日のトルコ音楽界にも大きな影響を与えています。

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