トルテロジン

トルテロジン

トルテロジン（Tolterodine）は、過活動膀胱が引き起こす排尿に関する様々な不快な症状、例えば突然我慢できないほどの強い尿意が起こる尿意切迫感、トイレに行く回数が増える頻尿、そして意図せず尿が漏れてしまう切迫性尿失禁などを改善するために用いられるお薬です。ムスカリン受容体と呼ばれる体内の特定の部位に作用することで、膀胱の異常な収縮を抑え、これらの症状を和らげる効果があります。商品名としては「デトルシトール」として知られており、日本だけでなく、カナダ、米国、エジプトなどいくつかの国で使われています。

効能と効果

日本国内でトルテロジンの使用が認められているのは、主に過活動膀胱に関連する以下の症状に対する効果です。

尿意切迫感（急にトイレに行きたくなり、我慢するのが難しい感覚）
頻尿（一日の排尿回数が異常に多い状態）
切迫性尿失禁（強い尿意を感じた後、トイレまで間に合わずに漏れてしまうこと）

これらの症状は、膀胱の筋肉が過敏になり、自分の意思とは関係なく収縮してしまうことによって起こることが多いです。

尿失禁と過活動膀胱

特にご高齢の方に見られる尿失禁の原因として、膀胱の壁にある排尿筋が勝手に活発に動いてしまう「排尿筋過活動」が挙げられます。この状態では、突然抑えきれないような尿意が生じ、膀胱が収縮してしまいます。その結果、頻繁にトイレに行きたくなったり、夜中に何度も起きたり、急な尿意で尿が漏れてしまったりといった症状が現れます。この膀胱の異常な動きは、尿流動態検査という専門的な検査で確認することができます。治療としては、膀胱の訓練や骨盤底筋を鍛える運動、そして膀胱の収縮を抑えるお薬（抗コリン薬など）を使う方法があります。トルテロジンは、この薬剤療法の一つとして位置づけられます。

作用の仕組み

トルテロジンは「ムスカリン受容体拮抗薬」という種類の薬です。体内のムスカリン受容体に結合することで、神経伝達物質であるアセチルコリンが受容体に結合するのを妨げ、その働きを抑えます。ムスカリン受容体にはM1からM5までのいくつかのタイプがありますが、トルテロジンはこれらのタイプのうち、特定のどれかに強く作用するのではなく、M1、M2、M3、M4、M5といった全てのタイプにほぼ同じくらいの親和性を持って作用するという特徴があります。これは、従来のムスカリン受容体拮抗薬の一部がM3受容体への選択性が高かったのとは異なります。全てのタイプの受容体に作用するものの、例えばオキシブチニンといった他の薬剤と比較して、トルテロジンは膀胱に対してより選択的に作用することが示されています。

体内での変化（代謝）

トルテロジンを服用すると、体内で主にCYP2D6と呼ばれる酵素の働きによって酸化され、DD01という物質に変化します。このDD01は、元のトルテロジンと同じくらいの薬理活性を持つ「活性代謝物」です。DD01の一部はさらに酸化されて別の物質になったり、また、トルテロジン自体もCYP3A4という別の酵素によって分解されたりします。

使用してはいけない方（禁忌）

以下に該当する方には、トルテロジンを使用することができません。

膀胱に尿が溜まっているのに十分に排出できない状態（尿閉）がある患者さん。特に、慢性的な尿閉が原因で尿が溢れ出てしまう溢流性尿失禁の方には使えません。
眼圧のコントロールができていないタイプの緑内障（閉塞隅角緑内障）がある患者さん。
心臓に重い病気がある患者さん。
腸の動きが麻痺して内容物が通過できなくなる病気（麻痺性イレウス）がある患者さん。
胃や腸の筋肉の働きが弱くなっている状態（胃アトニーまたは腸アトニー）がある患者さん。
全身の筋力が著しく低下する病気（重症筋無力症）がある患者さん。
トルテロジンに含まれる成分や、トルテロジンと構造が似ているフェソテロジンというお薬に対して、過去にアレルギー反応などを経験したことがある患者さん。

副作用

トルテロジンを使用した場合に起こる可能性のある副作用について説明します。日本国内で行われた臨床試験では、全体のおよそ半数（54.6%）の方に何らかの副作用が見られました。比較的よく見られる副作用としては、

口の中が乾く（32.8%）
便秘（7.6%）
お腹の痛み（3.0%）
消化不良（3.0%）

などがありました。これらの症状は薬の作用機序に関連するものが含まれます。

特に注意が必要な重大な副作用として、以下が報告されています。

アナフィラキシー（全身性の重いアレルギー反応。頻度は不明）
尿閉（尿が出なくなる、または出にくくなる状態。頻度0.3%）

これらの症状が現れた場合は、速やかに医師の診察を受ける必要があります。

その他にも、以下のような副作用が知られています。

頭痛
めまい
眠気
視調節障害（ピントが合いにくいなど）
ドライアイ（目が乾く）
尿路感染症
全身の倦怠感や疲労感
むくみ（浮腫）
胸の痛み
心拍数が速くなる（頻脈）
* 心臓のリズムが乱れる（不整脈）

これらの副作用が現れた場合も、医師や薬剤師に相談し、適切な対応をとることが大切です。トルテロジンは過活動膀胱の症状に対して有効な治療選択肢ですが、その使用にあたっては医師の指導のもと、ご自身の状態や他の持病、使用中の他の薬などを考慮して慎重に行う必要があります。

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