トロイリ鉱

トロイリ鉱：隕石に眠る鉄と硫黄の結晶

トロイリ鉱は、鉄と硫黄からなる化学式FeSの硫化鉱物です。その比重は4.61、モース硬度は3.5～4と比較的柔らかく、結晶構造は六方晶系に属します。新鮮な状態では灰褐色の輝きを放ちますが、空気中に触れると酸化反応を起こし、時間の経過とともにブロンズ色へと変化していくのが特徴です。

組成的には磁硫鉄鉱と類似していますが、決定的な違いがあります。それは強磁性を有するか否かです。磁硫鉄鉱が磁性を帯びるのに対し、トロイリ鉱は磁性を持ちません。この差異は、結晶構造における鉄原子の空位（欠損）の有無に起因します。磁硫鉄鉱には鉄の空位が存在するのに対し、トロイリ鉱では鉄原子が規則正しく配置されているため、磁気モーメントが打ち消し合い、強磁性を示さないのです。

地球上では珍しい鉱物であるトロイリ鉱ですが、宇宙空間においては比較的ありふれた存在です。特に隕石中には普遍的に見られ、ニッケル鉄鉱物であるカマサイトやテーナイト中に肉眼で確認できるほどの大きさで含まれていることがよくあります。隕石の研究において、重要な指標鉱物の一つとなっています。

トロイリ鉱という名称は、1862年にドイツの鉱物学者グスタフ・ローゼによって命名されました。彼は、1766年にイタリアのアルバレーロに落下した隕石（Albareto隕石）を分析し、その中に含まれるこの鉱物を新種として記載しました。そして、このアルバレーロ隕石の落下を最初に報告した人物、イエズス会士のドメニコ・トロイリに敬意を表して、トロイリ鉱と命名したのです。トロイリは、詳細な観測記録を残しており、その功績は隕石研究の歴史においても高く評価されています。

このように、トロイリ鉱は、その組成の単純さとは裏腹に、地球科学、特に隕石学において重要な役割を担う鉱物です。その産出状況や特性から、地球形成史や太陽系における物質進化過程を解き明かす手がかりを与えてくれる貴重な存在と言えるでしょう。また、地球上の希少性と隕石における普遍性という対比は、地球と宇宙の物質循環の謎を解き明かす上で重要な視点を与えてくれます。今後、さらなる研究が進むことで、トロイリ鉱が持つ科学的な意義はさらに深まることが期待されます。

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