ドメニコ・トロイリ

ドメニコ・トロイリと1766年の隕石落下

ドメニコ・トロイリ (1722-1792) は、イタリア出身のイエズス会士にして、モデナのエステ家所蔵の図書館司書でした。彼は、1766年にエミリア＝ロマーニャ州で発生した隕石雨の記録を残したことで知られています。この出来事は、ヨーロッパにおける隕石落下記録の最初期のものとして、科学史にその名を刻んでいます。

トロイリは、グレゴリアン大学で学び、ルジェロ・ヨシップ・ボスコヴィッチの原子論研究にも携わっていました。彼の学問的背景は、後の隕石調査における綿密な観察と記録に繋がったと考えられます。

アルバレート隕石と詳細な観察記録

1766年7月15日（諸説あり）、アルバレート近郊に隕石が落下しました。トロイリは、この出来事を詳細に記録した『空から落下した石についての考察』（Ragionamento della caduta di un sasso）を同年中に刊行しました。この43ページに及ぶ報告書には、目撃証言や隕石の物理的特性が克明に記されています。

トロイリの記録によると、午後5時頃、晴天の下、多くの住民が空から降ってきた物体を目撃しました。閃光と爆発音と共に、空を横切る複数の発光体が地上に落下。一部は燃えるように明るく、一部は暗く煙を上げていたとされます。落下衝撃は家畜を倒し、人々も転倒を避けるほどだったといいます。隕石は地面に1メートルほどの深さの穴を開け、多数の破片に分裂しました。

トロイリは、隕石の重さ、独特の形状、磁性、燃えたような表面、鉄のような輝きを持つ砂岩状の内部構造を詳細に記しています。特に、真鍮のような物質を彼は“marchesita”と名付けました。約2kgの隕石が回収され、現在では「アルバレート隕石」と呼ばれ、世界中の博物館や研究機関に収蔵されています。モデナ大学博物館には、最大の605gの破片が保管されています。

隕石の組成とトロイリ鉱

長い間、アルバレート隕石の主成分は[黄鉄鉱]と考えられていましたが、1862年、グスタフ・ローゼによる組成分析の結果、[硫化鉄]であると判明しました。ローゼはこの鉱物を、トロイリに因んで「[トロイリ鉱]」と命名しました。

興味深いことに、トロイリ自身は、この隕石の起源を火山活動によるものと考えていました。宇宙から飛来した天体とは認識していなかったのです。しかし、彼の詳細な観察記録は、後の隕石研究に大きな影響を与え、隕石研究の礎を築く上で重要な役割を果たしました。

その他の業績

トロイリは、隕石研究以外にも、Giambattista Toderiniとの共著で植物化石の成因に関する論文『Dissertazione sopra un legno』（1770年）や、電気実験に関する著書『Della elettricita: lezioni di fisica sperimentale fatte nella Universita di Modena il primo anno del suo rinnovamento』（1772年）などを著しています。多岐にわたる研究活動からも、彼の博識さと探究心が伺えます。

まとめ

ドメニコ・トロイリは、ヨーロッパにおける初期の隕石研究において、その詳細な観察記録と分析によって重要な貢献を果たしました。彼の業績は、科学史における隕石研究の発展に多大な影響を与えただけでなく、彼の科学者としての多様な興味と探究心も示しています。アルバレート隕石とトロイリ鉱は、彼の名を後世に伝える重要な遺産となっています。そして、彼の記録は、現代の隕石研究にとっても、貴重な歴史的資料として活用されています。

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