トローイロス

トローイロスは、トロイア戦争にまつわる伝説に登場する人物で、ギリシア語ではΤρωΐλος、ラテン語ではTroilusと表記されます。彼は、吟遊詩人によって語り継がれたホメロスの叙事詩『イーリアス』にもその名が登場します。

神話におけるトローイロス

ギリシア神話において、トローイロスはトロイア王プリアモスとヘカベーの息子であり、イーリオス（トロイアの別名）の若い王子として描かれています。彼の運命はイーリオスの運命と深く結びついており、予言によれば、彼の死はトロイアの滅亡を暗示するとされていました。そのため、彼はギリシアの英雄アキレウスによって待ち伏せされ、殺害されるという悲劇的な最期を迎えます。

ソポクレスをはじめとする古代の作家たちは、トローイロスを、親に嘆き悲しまれる死んだ子供の象徴として描き、その若さゆえの悲劇を強調しました。また、彼は若い男性の美の模範としても語られ、当時の多くの絵画の題材にもなっています。

中世・ルネサンス期のトローイロス

西ヨーロッパの中世やルネサンス期になると、トローイロスの物語は新たな展開を見せます。彼はプリアモスとヘカベーの5人の嫡出子の中で最も若い存在として描かれ、若くしてトロイア戦争における重要な指導者の一人として活躍します。しかし、その運命は変わらず、戦いの最中にアキレウスに討たれてしまいます。

12世紀には、トローイロスがクレシダという女性と恋に落ちる物語が付け加えられました。クレシダの父はギリシアを打ち破った人物で、彼女はトローイロスに愛を誓いながらも、捕虜交換で父の元に送られると、ギリシアの英雄ディオメーデースに心変わりしてしまいます。この悲恋物語は、ジェフリー・チョーサーやウィリアム・シェイクスピアなどの作家によって作品化され、広く知られるようになりました。

中世の伝承において、トローイロスは忠実な愛（ミンネ）の象徴、そして高潔な異教徒の代表とみなされました。しかし、ミンネの習慣が廃れるにつれて、彼の運命に対する共感は薄れていきました。

近代におけるトローイロス

18世紀から19世紀にかけて、トローイロスはほとんど注目されませんでしたが、20世紀に入ると、再びトロイア戦争が題材として取り上げられるようになり、トローイロスも再評価されるようになりました。

トローイロスの物語は、その悲劇的な運命と愛の裏切りを通して、人間の弱さや運命の残酷さを象徴する物語として、現代においても多くの人々の心に響き続けています。

関連作品

『トロイルスとクリセイデ』（ジェフリー・チョーサー、1385年頃）
『トロイラスとクレシダ』（ウィリアム・シェイクスピア、1602年頃）

外部リンク
List of pictures of Troilus at Perseus Project : フランソワの壺の図版など、古典に関する豊富な資料が含まれています。
Publicly accessible images of ambush and pursuit in the Beazley Archive : トローイロスに関する多くの画像が学術目的で利用可能です。
* The Development of Attic Black-Figure by J. D. Beazley : トローイロスの絵画に関する考察がされています。（白黒図版）

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