トワイヤン

トワイヤン：シュルレアリスムの孤高の画家

1902年、チェコのスミーチョフに生まれたマリエ・アンナ・チェルミーノヴァーは、のちにシュルレアリスムを代表する画家「トワイヤン」として知られるようになる。フランス語で「市民」を意味する「シトワイヤン」を由来とするこのペンネームは、彼女が自身の女性性を意識的に覆い隠そうとした可能性を示唆している。チェコ語では姓も女性形に変化するため、この仮名は彼女自身のアイデンティティ形成において重要な役割を果たしたと言えるだろう。

プラハ時代：前衛芸術の中心で

トワイヤンは1919年から1920年にかけてプラハの応用美術高等学校で学び、その後、若き前衛芸術家のサークル「デヴィエトスィル」に参加。ここでインジヒ・シュティルスキーと出会う。シュティルスキーとの親密な関係は、創作活動においても大きな影響を与え、二人は互いに刺激しあいながら作品を制作した。初期にはキュビズムの影響が見られるものの、後に独自性を追求し、シュルレアリスムへと傾倒していく。

シュティルスキーと共にパリへ滞在した時期には、新しい画風「人工主義（artificialisme）」を確立。この期間にパリ・シュルレアリスム・グループの人々と交流し、共同企画展を開催するなど、国際的な舞台で活躍する。

1929年にプラハに戻ると、シュティルスキーが始めた雑誌でエロティックなイラストを発表するなど、多様な表現を試みる。1934年にはネズヴァルやタイゲらと共にプラハ・シュルレアリスム・グループを結成。アンドレ・ブルトンやポール・エリュアールといったシュルレアリスムの中心人物もプラハを訪問し、グループを激励した。

困難な時代と地下活動

1939年、チェコスロヴァキアがナチス・ドイツの支配下に入ると、シュルレアリスムが「退廃芸術」として弾圧される危険性が高まったため、トワイヤンは地下活動に身を潜める。それでも創作活動は続けられ、「射撃」と題されたリトグラフ作品を発表した。更に、ユダヤ人詩人インジヒ・ハイズレルを匿い、彼の詩集に挿画を提供するなど、危険を顧みず活動した。シュティルスキーの死という悲劇も経験する。

戦後、チェコスロヴァキアに社会主義体制が成立すると、反スターリン主義者であったトワイヤンは、抑圧的な体制を逃れるため、1947年にハイズレルと共にパリへ亡命する。

パリ時代：シュルレアリスムの理想を追い求めて

パリでは、再びブルトンらシュルレアリストと交流。個展を開催するなど、精力的な活動を続ける。シュルレアリストたちの集会にも欠かさず出席し、ブルトンの死後は発言も積極的に行うようになった。彼女の主張の中心は、ロマン主義への回帰、身体性の重視、そして詩的探求へと向かう性的側面の重要性であった。

1960年代にはリーヴル＝オブジェを制作、1970年代にはピエール・プシュモールが率いるマントナン集団の作品にも携わる。晩年には、自身の白紙のページが緑色になったことに気づいたという言葉を遺して、1980年にパリで亡くなった。

作品と評価

トワイヤンの作品は、シュルレアリスム独特の幻想的で詩的な世界観が特徴。初期のキュビズム的要素から、次第に独自のシュルレアリスム様式を確立していく。「鎖につながれたプロメテウス」、「射撃」、「光の神話」など、多くの作品が、彼女の複雑で多様な表現技法と、深い洞察力を示している。

生涯にわたり、シュルレアリスム運動の中核を担い続けたトワイヤン。彼女の作品は、戦乱や政治的抑圧という困難な時代の中で、人間の精神の自由と創造性を追求し続けた証と言えるだろう。その孤高の芸術家としての生き様は、現代においても、多くの人々に強い感銘を与え続けている。

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