トータリズム

トータリズムとは

トータリズム（Totalism）は、アメリカの作曲家、音楽学者、音楽理論家であるカイル・ガンによって提唱された音楽用語です。ガンは、1990年代に、ポストミニマリズムという言葉では説明しきれない、1950年代以降に生まれた作曲家たちの新しい音楽の傾向を説明するために、この言葉を使い始めました。

ミニマリズムからの発展

ミニマリズムは、1960年代から1970年代にかけてアメリカを中心に流行した音楽スタイルで、単純な音型やリズムの反復を特徴としています。しかし、1980年代以降、ミニマリズムの影響を受けつつも、その手法をさらに発展・深化させた作曲家たちが現れました。これらの作曲家たちは、単なる反復にとどまらず、複雑な音律やリズム、音圧の増強など、さまざまな要素を導入し、独自の音楽世界を築き上げました。ガンは、これらの作曲家たちの音楽を、ミニマリズムの亜種としてではなく、独自の音楽スタイルとして「トータリズム」と名付けたのです。

トータリズムの特徴

トータリズムは、ミニマリズムの反復という要素を受け継ぎながらも、以下のような特徴を持っています。

音律の複雑化：従来のミニマリズムが単純な音律を用いるのに対し、トータリズムは、12音技法やスペクトル楽派のような、複雑な音律理論を取り入れています。
リズムの複雑化：単純な反復リズムだけでなく、順列組み合わせに基づく複雑なリズムパターンや、ポリリズムを多用しています。
音圧の増強：ミニマリズムの静謐な響きとは対照的に、ダイナミックでパワフルな音響を追求する傾向があります。ただし、必ずしもすべての作品で音圧が高いわけではなく、静寂を基調とした作品も存在します。
多様な要素の融合：ヨーロッパの現代音楽の潮流や、ジャズ、ロックなどのポピュラー音楽の要素も取り入れ、多様な音楽的要素を融合させています。

トータリズムの作曲家たち

カイル・ガンは、以下の作曲家たちの作品にトータリズムの傾向が見られると指摘しています。

マイケル・ラウズ：ミニマリズムに12音技法を取り入れたメロディーや、オペラ作品で知られています。
マイケル・ゴードン：順列組み合わせから着想を得た、音価を並べ替える手法を用いたミニマリズムを提唱しています。
リース・チャタム：複雑な倍音構成を用いた、独特な音響空間を作り出しています。
ジョン・ルーサー・アダムズ：自然や環境をテーマにした、静謐で瞑想的な作品が特徴です。
カイル・ガン：自作の楽曲にも、トータリズムの傾向が見られます。
ベン・ニール：複雑な音律やリズムを用いた、実験的な作品を制作しています。
バーナデット・スピーチ：テレパシーをテーマにした、神秘的な作品で知られています。
ラリー・ポランスキー：特殊な音律の指示で埋め尽くされた長大な楽譜を好み、複雑な音楽を構築します。

トータリズムの広がり

トータリズムという用語は、カイル・ガン以外にはあまり用いられていないのが現状です。そのため、アメリカ合衆国以外の作曲家に対してトータリズムという形容が当てはまるかどうかは不明です。しかし、ミニマリズムの音圧を増強するという立場に立った作曲家は、世界中に存在します。例えば、日本には伊福部昭や松村禎三が、スペインにはマリア・デ・アルベアル、ロシアにはガリーナ・ウストヴォーリスカヤなどがいます。また、強い音圧を使わず、静かなミニマルという語法を用いた作曲家には、日本の甲斐説宗や、リトアニアのリカルダス・カベリスなどがいます。これらの作曲家たちも、トータリズムの概念で捉えることができる可能性も残されています。

参考楽曲

カイル・ガンは、以下の作品群にトータリズムの傾向が見られると指摘しています。

マイケル・ラウズ: Quick Thrust, Failing Kansas, Dennis Cleveland, The End of Cinematics
マイケル・ゴードン: Thou Shalt!/Thou Shalt Not!, Acid Rain, Four Kings Fight Five, Van Gogh Video Opera, Trance
リース・チャタム: An Angel Moves Too Fast to See
ジョン・ルーサー・アダムズ: Dream in White on White, Clouds of Forgetting, Clouds of Unknowing, The White Silence
カイル・ガン: Long Night, Custer and Sitting Bull, Unquiet Night
ベン・ニール: 678 Streams, ITSOFOMO
バーナデット・スピーチ: Telepathy Suite
ラリー・ポランスキー: Lonesome Road

まとめ

トータリズムは、ミニマリズムをさらに発展させた音楽スタイルであり、複雑な音律やリズム、音圧の増強を特徴としています。カイル・ガンによって提唱されたこの用語は、まだ広く浸透しているとは言えませんが、1980年代以降の新しい音楽の傾向を捉える上で、重要な概念の一つと言えるでしょう。

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