トーマス・フィリップス

トム・フィリップス提督：マレー沖海戦と最期の運命

1888年、スコットランドのグラスゴーに生まれたサー・トーマス・スペンサー・ヴォーン・フィリップスは、愛称「トム」で知られるイギリス海軍の軍人です。その卓越した能力から、海軍でのキャリアを着実に積み重ねていきました。1903年の士官候補生としての入隊から、優れた成績で卒業し、その後も昇進を重ね、駆逐艦艦隊司令官や軍令部次長といった要職を歴任しました。

1941年、フィリップスは海軍大将に昇格。同年11月にはシンガポールに赴任し、東洋艦隊司令官に就任しました。その直後、マレー半島への日本軍の侵攻という緊迫した事態に直面することになります。

太平洋戦争開戦後の12月8日、日本軍はマレー作戦を開始、マレー半島への上陸を開始しました。フィリップス提督は、戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルス、そして数隻の駆逐艦からなる艦隊を率いて、日本軍の上陸阻止に向かいました。しかし、航空母艦のインドミタブルは修理中であり、イギリス空軍の支援も不確実な状況でした。

このZ部隊と呼称された艦隊は、航行中に日本海軍の潜水艦に発見され、12月10日、日本海軍機の激しい攻撃を受けました。レパルスは午後2時3分に沈没。不沈艦と言われたプリンス・オブ・ウェールズも魚雷攻撃を受け、午後2時50分に沈没しました。フィリップス提督とプリンス・オブ・ウェールズの艦長、ジョン・リーチ大佐は、艦と共に海に消えました。

複数の資料によると、沈没間際、フィリップス提督とリーチ艦長は艦橋に留まり、脱出する乗組員にハンカチを振って見送ったと伝えられています。日本の報道では、救助のための駆逐艦が接近し、艦からの退艦を促したにもかかわらず、「ノー・サンキュー」と拒否したという記述があります。この最期の言葉は、フィリップス提督の揺るぎない決意と責任感の表れとして、今も語り継がれています。

フィリップス提督の死は、イギリス海軍にとって大きな損失となりました。彼の勇敢さと献身は、多くの海軍将兵にとって、今もなお記憶され称賛されています。マレー沖海戦は、太平洋戦争における重要な転換点であり、その戦いで命を落としたフィリップス提督の功績は、歴史に刻まれています。彼の短い生涯は、軍人としての誇りと責任感、そして、部下を想う深い愛情に満ちたものでした。

マレー沖海戦の詳細は、セシル・ブラウンの従軍記『スエズからシンガポールへ』にも記述されています。この本は、戦場での緊迫感や、フィリップス提督をはじめとする将兵の勇気と悲劇を克明に伝えています。

フィリップス提督の生涯と死は、歴史家や研究者にとって、戦争の悲劇と人間の尊厳について考える重要なテーマであり続けています。彼の物語は、勇気と決意、そして最期の尊厳について、私たちに多くのことを教えてくれます。

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