トールボーイ

トールボーイ：巨大構造物を破壊した地震爆弾

トールボーイは、第二次世界大戦中にイギリスの技術者、バーンズ・ウォーリスによって開発された、重さ5トンの大型爆弾の渾名です。その目的は、小型爆弾では破壊困難な巨大なコンクリート構造物を貫通し、内部から破壊することでした。

開発経緯

ウォーリスは、戦争初期から敵の戦争遂行能力を奪うため、巨大な社会基盤施設や製造工場を破壊できる大型爆弾、いわゆる「地震爆弾」の構想を抱いていました。彼は、地震の原理を応用した10トン爆弾に関する論文を発表し、地表で巨大な爆弾を爆発させることで地下の構造物を破壊できると主張しました。

しかし、当時のイギリス空軍の爆撃機の爆弾搭載能力には限界があり、そのような巨大な爆弾を運ぶことは不可能でした。そのため、ウォーリスは地震爆弾の設計を一時的に棚上げし、ドイツのダム破壊を目的とする「反跳爆弾」の開発に注力しました。

反跳爆弾の開発後、イギリス空軍はより革新的な解決策を模索するようになり、ウォーリスの構想が再び注目を集めました。特に、トンネルや橋梁のような巨大な構造物、戦艦などの装甲目標、要塞などのコンクリート構造物に対する新しい爆撃技術が求められていました。

10トン爆弾の輸送能力がまだなかったため、ウォーリスは設計の小型化に取り組み、その結果生まれたのが5トン爆弾「トールボーイ」です。トールボーイの設計と製造計画は、正式な契約なしに国防省の職員に提案され、承認されました。当初、イギリス空軍はこの計画を高く評価していませんでしたが、後にその性能が明らかになると、計画は急速に進展しました。

設計

当時の爆弾は、炸薬を最大限に搭載するために外板が薄く、硬い目標を貫通できませんでした。トールボーイでは、高張力鋼で外装を鋳造し、目標に着弾して貫通した後で爆発するように設計されました。また、ウォーリスの空力設計により、高高度からの投下と相まって、目標に高速で着弾することが可能になりました。

爆弾のフィンは、尾部から中央部分までの長さがあり、全長6.53mに対して、外装の長さは3.05mでした。初期の設計では、着弾時に斜めになる傾向がありましたが、尾部を改修し、フィンをひねることで、爆弾が回転しながら落下するようにしました。これにより、ジャイロ効果が得られ、ピッチングとヨーイングが抑制され、空力特性と命中精度が向上しました。

トールボーイは、高度5,500m、速度270km/hで投下されるように設計されており、着弾時には1,210km/hに達し、深さ24m、差し渡し30mのクレーターを形成し、5m厚のコンクリートを貫通することができました。

トールボーイの運用には、ランカスター爆撃機の特別改造が必要でした。防弾板や防御用武装が撤去され、爆弾倉ドアが改造されました。また、第617爆撃機中隊「ダムバスターズ」が、特別な安定化自動爆撃照準装置（SABS）の取り扱い訓練を受けました。SABSは、温度や風速などの修正を加えることで高い命中精度を実現しましたが、目標を正確に識別できた場合にのみ有効でした。

戦歴

トールボーイは、ソミュール鉄道トンネル、ルアーブルのUボート基地、V3砲が設置中だったミモイェック、ドイツの戦艦ティルピッツなど、他の手段では破壊できないと考えられていた目標に対して使用されました。特に、ティルピッツに対する攻撃では、3発の直撃弾を与え、転覆・沈没させることに成功しました。

トールボーイは、第二次世界大戦における航空兵器の新たな可能性を示し、その後の爆弾開発に大きな影響を与えました。その威力は、巨大な構造物を破壊するだけでなく、敵の士気をくじき、戦争の終結を早める一助となったと言えるでしょう。

性能諸元

全長：6.35m
直径：950mm
重量：5,443kg
弾頭：2,358kg
炸薬：トーペックス
使用弾数：854発

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