ドイツ・ソビエト境界友好条約

ドイツ・ソビエト境界友好条約：ナチス・ドイツとソビエト連邦の協調と裏切り

1939年9月28日、ナチス・ドイツとソビエト連邦は、ポーランド侵攻後の新たな地政学的状況に対応するため、「ドイツ・ソビエト境界友好条約」を締結しました。この条約は、表面上は国境確定と友好関係の樹立を謳う一方、秘密議定書に隠された真の目的と、その後のヨーロッパ情勢に大きな影響を与えました。

条約締結の背景：ポーランド分割と勢力範囲の再編

1939年8月23日、ナチス・ドイツとソビエト連邦は「モロトフ・リッベントロップ条約」（独ソ不可侵条約）を締結し、互いの非侵犯と、ヨーロッパにおける勢力範囲の分割を秘密裏に合意していました。ポーランド侵攻後、この条約に基づき、ドイツ軍は西ポーランドを、ソ連軍は東ポーランドをそれぞれ占領しました。しかし、実際の占領状況は、事前に合意された勢力範囲とは食い違っていました。

条約の内容：領土の交換と秘密議定書

ドイツ・ソビエト境界友好条約は、ドイツ外相リッベントロップとソ連外相モロトフによって調印されました。この条約は、18世紀末の旧プロシア国境の回復をドイツに、ルーマニア国境付近の油田地帯の獲得をソ連に約束しました。しかし、重要なのは、条約に付随する秘密議定書の内容です。

秘密議定書では、両国はそれぞれが占領したポーランド領から、自国の同胞を交換することに合意しました。また、モロトフ・リッベントロップ条約で決定された中央ヨーロッパの勢力範囲を改めて確認し、「ポーランド人の扇動」の抑制を約束しました。

しかし、ドイツ軍のポーランド侵攻において、当初ソ連の勢力範囲とされていたルブリン県とワルシャワ県東部がドイツの支配下に入ったため、その補償として、秘密議定書ではリトアニア全土（スヴァウキ地方を除く）をソ連の勢力範囲に編入することが決定されました。この決定は、ソ連が1940年6月15日にリトアニアを占領し、リトアニア・ソビエト社会主義共和国を樹立する口実となりました。

条約の意義と影響：第二次世界大戦と冷戦への伏線

ドイツ・ソビエト境界友好条約は、ナチス・ドイツとソビエト連邦の短期的利益を追求した結果、生まれた妥協でした。表面上は友好関係を強調する一方、秘密議定書に隠された領土分割と、その後の東欧支配への野望は、第二次世界大戦の勃発とその後のヨーロッパ情勢を大きく変えました。

この条約は、両国の利害の一致と裏切りが複雑に絡み合った歴史的証左であり、第二次世界大戦とその後の冷戦構造を理解する上で重要な史料と言えるでしょう。一見、友好条約に見えるこの文書の裏に隠された、両国の思惑と、その結果として引き起こされた悲劇的な出来事を、私たちは常に記憶しておく必要があります。

参考文献

* Žalys, Vytautas (September 1999). “The Era of Ultimatums”. In Alfonsas Eidintas, Vytautas Žalys, and Alfred Erich Senn. Lithuania in European Politics: The Years of the First Republic, 1918–1940. New York: St. Martin's Press. ISBN 0-312-22458-3

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