ドイツ国営鉄道 (東ドイツ)

東ドイツ国営鉄道とは

東ドイツ国営鉄道（Deutsche Reichsbahn）は、1949年から1990年の東西ドイツ統一まで存在した、ドイツ民主共和国（東ドイツ）の国営鉄道です。第二次世界大戦後のドイツ分割に伴い、旧ドイツ国営鉄道の一部を引き継ぎました。

特筆すべきは、東ドイツが「ライヒ（帝国）」という言葉をあえて使い続けたことです。これは、東ドイツが旧ドイツ国営鉄道の正当な継承者であることを誇示し、ベルリンを中心としたドイツ全土の鉄道交通に関する権利を主張するためでした。共産主義国家である東ドイツにとって、ドイツ帝国やナチス・ドイツを連想させる「ライヒ」という言葉は、本来そぐわないものでしたが、政治的な意図によって使用されました。

歴史

1949年、第二次世界大戦後の占領期間を経て、ドイツの鉄道はドイツ人の管理下に戻されました。ソ連占領地区では、1937年にドイツ国営鉄道に与えられた名称「ドイツ国営鉄道（DR）」がそのまま引き継がれました。一方、西ドイツ（旧アメリカ・イギリス・フランス占領地区）では、ドイツ連邦鉄道（DB）が設立されました。DRとDBは、1994年に合併してドイツ鉄道（DB AG）となるまで、別個の企業体としてドイツの鉄道を運営していました。

路線網

東ドイツ国営鉄道は、東ドイツ全土および西ベルリンに路線網を広げていました。ただし、1984年以降、西ベルリン市内のSバーン（都市近郊電車）は、西側のベルリン運輸公社が運行していました。

第二次世界大戦前には複線化されていた主要幹線も、戦後のソ連による物資接収によって、1万キロメートル以上のレールが持ち去られ、単線での運行を余儀なくされました。その後、主要幹線の複線化は進められましたが、1989年に入っても完了には至りませんでした。

使用されていた車両

東ドイツ国営鉄道で使用されていた車両の一部は、ドイツ統一後もドイツ鉄道の車両として現役で使われています。ドイツ統一まで蒸気機関車が活躍しており、特に1940年から製造された52系機関車（通称「戦争列車」）が有名です。その他、ルーマニア製のディーゼル機関車である119系（現229系）、電気機関車の250形・243形などが活躍しました。

客車としては、ゲルリッツ市の車両工場で製造された二階建て客車が広く使用されました。この二階建て客車は1930年代に開発され、1952年から製造が再開されたもので、主に近距離列車に用いられました。また、1964年には高速列車『VT18.16系（現675系）』が登場し、SVT（Schnellverkehrstriebwagen）と呼ばれ、最高時速160キロを誇りました。この列車は、ベルリン・プラハ・ウィーン間の特急「ヴィンドボナ」や、ベルリン・ブダペスト間の「ハンガリア・エクスプレス」など、東欧諸国への直通列車に投入されました。

東西ドイツ間の連絡列車

1989年の東西ドイツ統一まで、西ベルリンと西ドイツの都市を結ぶために、ドイツ領域通過列車（Interzonenzug）が運行されていました。西ベルリンと東ドイツ領域内での運行は東側が行い、直通する客車の多くには東側の車両が用いられました。

また、ライプツィヒ見本市開催期間中には、西ベルリンや西ドイツの各都市との直行列車の運行も行われました。1980年代には、ハンブルクやミュンヘンから西ベルリンを経由せずに直接東ドイツ領域内へ向かう列車も存在しましたが、乗車には事前に入国査証と通過する越境駅の申請が必要でした。

まとめ

東ドイツ国営鉄道は、冷戦時代における東西ドイツの分断を象徴する存在であり、その歴史は単なる鉄道運営の歴史にとどまらず、政治的な背景や社会情勢を反映しています。東ドイツの解体と共にその役割を終えましたが、当時の技術や文化、そして東西ドイツの複雑な関係を示す貴重な遺産として、今もなお鉄道ファンの間で語り継がれています。

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