ドイツ＝オーストリア電信連合

国際電信の黎明期：ドイツ＝オーストリア電信連合と万国電信連合

1850年、ドイツとオーストリアを中心とする4か国は、電信技術の発展に伴い、国際的な電信連合であるドイツ＝オーストリア電信連合（DÖTV）を設立しました。この連合は、電信の種類を「官報」「鉄道電報」「私報」の三つに分け、料金体系は国内ではゾーン制、国際電信では距離と語数による従量制を採用しました。収入は伝送距離に応じて加盟国間で配分され、後に多くのドイツ諸国やオランダもこの連合に加わりました。連合は、直通回線の敷設やモールス符号の国際規格化を進め、電信業務の効率化と国際的な連携を強化しました。

一方、1855年にはフランス、ベルギーなどを中心とする西部欧州電信連合が発足しました。この連合は、1851年にフランスとベルギーの間で結ばれた相互接続条約が基盤となっています。その後、ポルトガル、オランダ、バチカン市国なども加盟しました。当初、両連合は別々に活動していましたが、1858年にはブリュッセルで国際電信ルールを整備する条約が締結され、11か国が参加しました。1865年、両連合はパリで正式に合併し、万国電信連合（ITU）が誕生しました。

万国電信連合には、オーストリア、フランス、プロイセン、ロシア、イギリスを除くヨーロッパ諸国など20か国が参加しました。イギリスが参加しなかったのは、電信事業が民営であったためです。万国電信連合は、均一料金を採用し、フランスが事実上の主導権を握りました。1868年のウィーン会議では、ペルシアと英領インドが参加し、スイスのベルンに事務局が設置され、国際電信に関する情報収集と通知がフランス語で行われることとなりました。参加国の負担額は、株式のような単位を設けて、その保有数によってクラス分けされるシステムで決定されました。このシステムは、現在の国際電気通信連合（ITU）にも引き継がれています。

日本は1871年のローマ会議からオブザーバーとして万国電信連合に参加しました。この会議では、企業体の参加も認められましたが、これは電信ケーブルの多くが私企業に保有されていたためです。イギリスとオランダが無制限参加を主張しましたが、ロシアとフランスは制限を加えようとし、企業参加をめぐっては、激しい議論がありました。

1875年の国際協定では、通信の秘密が保障されましたが、国防や公序良俗に対する脅威がある場合は、参加国は電信を差し止めることができるという例外規定も設けられました。アメリカ合衆国は参加を辞退しましたが、アメリカ国内の主要な電信会社は協定を遵守しました。

無線通信の登場と国際協調の模索

20世紀に入ると、無線通信が船舶間通信の手段として重要性を増しました。イギリスとイタリアはグリエルモ・マルコーニの技術を採用しましたが、マルコーニの市場独占に対抗するため、テレフンケンとリー・ド・フォレストが提携しました。無線通信の普及に伴い混信問題が発生し、国際的な解決が必要となりました。1903年には9か国がベルリンで会議を開き、1906年の万国無線電信会議ではSOSが遭難信号として採用されました。1908年には日本を含む30か国が参加し、国際無線電信連合が設立されました。しかし、イギリスとイタリアは相互通信の義務において例外を設けさせました。

第一次世界大戦中、ドイツは無線通信傍受合戦で敗北し、海底ケーブルも切断されたり利用されたりしました。戦後、ドイツの海底ケーブルは返還されませんでした。一方、日本は国策として無線事業を拡大し、1916年にはアメリカと交信可能となりました。ワシントン会議（1922年）では、日本が切り取ったドイツの海底ケーブルをアメリカが使用することになり、アメリカの影響力が強まりました。しかし、電信事業は私企業に支配されるようになり、1919年にはマルコーニ社、RCA、テレフンケン、CSFが国際無線カルテルを結び、1945年まで続きました。

1932年、万国電信連合のマドリード会議では、電話や無線を含む共通規則の制定がアメリカとカナダの反対に遭いました。その結果、各国は電信、電話、無線の各分野で設けられた共通規約に、少なくとも一つ加盟するという形になりました。この時、万国電信連合は国際電気通信連合となり、無線分野も包含されました。このように、国際電信と無線通信の歴史は、技術革新と国際協調、そして国家間の競争が複雑に絡み合ったものであり、現在の国際通信の基礎を築いたと言えるでしょう。

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