ドクターフィッシュとは
ドクターフィッシュとは、
コイ亜科に属する
淡水魚、ガラ・ルファ(
学名: Garra rufa)の
通称です。この魚は、
西アジアの淡水域に生息し、成魚の体長は約10cm程度です。水温や水質への適応力が高く、37℃程度の高温にも耐えることができます。普段は石の上や陰でじっとしていることが多いですが、餌を求めるときは活発に動き回ります。
ドクターフィッシュと呼ばれる理由
ドクターフィッシュという名前は、この魚がヒトの古い角質を食べる習性に由来します。ガラ・ルファは、餌の少ない環境で、ヒトが水中に手足などを入れると、その表面の古い角質を食べるために集まってきます。この習性が、美容や治療に役立つとされ、「ドクターフィッシュ」と呼ばれるようになりました。特に、皮膚病などで角質が大量に生成される箇所を好んで寄って行きます。
ただし、傷口を水中に浸けると、かさぶたを剥がされたり感染症のリスクがあるため、注意が必要です。
分布と生態
ガラ・ルファは、トルコ、
イラン、
イラク、
シリア、
レバノンなど、
西アジアの淡水域に生息しています。雑食性で、口が吸盤のようになっており、水中の
藻類や
微生物、
昆虫の
幼虫などを食べます。繁殖は
卵生で、水草やコケに産卵し、25℃前後の水温であれば3~5日程度で孵化します。未成魚の頃は群れで生活しますが、成長したオスは縄張りを持つようになります。寿命は約7年です。
ヒトの角質を食べる時期は、生後2ヶ月から2年半頃までです。温泉に生息するガラ・ルファがヒトの角質を食べるようになったのは、温泉には他の生物が少ないため、他に良い食べ物が無いからだと考えられています。通常、食べ物が豊富にある環境では、ヒトの角質を食べることはあまりありません。
ヒトとの関わり
なぜヒトの角質を食べるのか
温泉に棲むガラ・ルファがヒトの角質を食べる習性を持つのは、温泉には他の生物があまり生息しておらず、他に良い食べ物がないためと考えられます。食べ物が豊富にある環境では、ヒトの角質を食べることは珍しい行動です。トルコの生物学者は、「ヒトの皮膚はドクターフィッシュにとって、肉のようなごちそう」だと例えました。
1950年代の開発により、河川から温泉が隔離されたことで、ガラ・ルファはヒトの角質を食糧とするようになったと考えられています。
ドクターフィッシュの利用
ガラ・ルファは、皮膚の表面の古い角質を取り除く効果が期待されています。皮膚をついばまれる際の刺激が、皮膚の代謝を促進する「マッサージ効果」や「リラクゼーション効果」をもたらすとされています。また、乾癬などの皮膚病への治療効果も期待され、「自然のピーリング効果」があるとも言われています。臆病な魚が人に寄ってくることから、心の弱った人にも効果があるのではないかという説もあります。
ドイツやトルコでは、ドクターフィッシュによる治療が保険適用される医療行為として認められています。しかし、皮膚病の種類によっては逆効果となる場合もあるため、注意が必要です。
アトピー性皮膚炎のように、皮膚のバリア機能が低下している場合は、適さない可能性があります。また、傷口を水に浸けると感染症のリスクがあるため、傷がある場合は避けるべきです。
利用上の注意点
ドクターフィッシュは、多くの地域で利用されていますが、一部の地域では規制されています。アメリカでは、14の州でフィッシュセラピーが禁止されており、アブダビ首長国では全面禁止されています。
イギリスでは、不特定多数の人が水槽を利用するため、感染症のリスクについて注意喚起が行われています。日本でも、水質管理に注意し、衛生的な環境を保つことが重要です。
日本での取り扱い
ガラ・ルファは日本では自然分布していませんが、水族館や
動物園などで展示されています。また、繁殖にも成功しており、レンタル業者も存在します。
日帰り入浴施設などでも「フィッシュセラピー」として、ドクターフィッシュに触れられるサービスが提供されています。比較的丈夫で飼育が簡単なため、児童施設で取り扱われることもあります。しかし、水の汚れには弱いため、水換えを十分に行うことが重要です。
詐称事例
ガラ・ルファの代わりに、ナイルティラピアなどのカワスズメ科の魚をドクターフィッシュとして使用する業者もいます。これらの魚は微小な歯を持っており、肌を傷つける可能性があるため、注意が必要です。また、日本の近海に生息するゴンズイもヒトの角質をついばむことがありますが、毒を持つためセラピーには不向きです。
他の「ドクターフィッシュ」
日本の近海に生息する
ホンソメワケベラは、掃除魚として知られ、
英語では「ドクターフィッシュ」と呼ばれることがあります。これは、他の大きな魚の
寄生虫などを食べる習性から、魚の医者とみなされているためです。
まとめ
ドクターフィッシュことガラ・ルファは、古い角質を食べるユニークな習性を持つ魚です。美容や治療に利用される一方で、その生態や利用には注意が必要です。正しい知識を持ち、安全に利用することが重要です。