ドナルド・ミッキー

ドナルド・ミッキー（Donald Michie, 1923年11月11日 - 2007年7月7日）は、イギリスを代表する人工知能研究者の一人です。その生涯は、第二次世界大戦での暗号解読から、戦後の人工知能研究の開拓、そして晩年の慈善活動に至るまで、多岐にわたる分野での貢献によって彩られています。

生い立ちと戦時中の活躍

ミッキーは、当時イギリス領だったビルマ（現在のミャンマー）のヤンゴンで生まれました。幼少期を過ごした後、イギリスに渡り、名門ラグビー校に進学。その後、オックスフォード大学のベリオール・カレッジで西洋古典学を学ぶための奨学金を得るなど、優秀な学生でした。しかし、1943年春、第二次世界大戦の激化に伴い、ミッキーは自らの才能を国家のために役立てたいと強く願うようになりました。当初は諜報部員向けの日本語コースを志望しましたが、定員超過のため断念。代わりに暗号解読のコースへと進み、そこで類まれなる才能を開花させました。

わずか6週間後、ミッキーはイギリスの暗号解読拠点であるブレッチリー・パークに配属され、ドイツのテレタイプ暗号「Tunny」の解読に携わることになります。ブレッチリー・パークでは、アラン・チューリングやマックス・ニューマンといった著名な科学者たちと共に働き、その才能をいかんなく発揮しました。彼らの努力は、連合国軍の勝利に大きく貢献したと言われています。

戦後の研究活動

戦後、ミッキーは再び学問の道に戻り、1945年から1952年までオックスフォード大学のベリオール・カレッジで学びました。1953年には哺乳類の遺伝学で博士号を取得。その後、人工知能研究へとその関心を移し、その分野の先駆者として活躍することになります。

1960年、ミッキーは世界初の学習プログラムとして知られる「Machine Educable Noughts And Crosses Engine (MENACE)」を開発しました。これは、三目並べを学習し、必勝法を身につけるプログラムです。当時、コンピュータは高価で一般には手に入らなかったため、ミッキーはこのプログラムを約300個のマッチ箱を使って実装しました。各マッチ箱は盤面の特定の状態を表し、中には色とりどりのビーズが入っています。ビーズの色がそれぞれの局面における次の手を表し、同じ色のビーズが多いほど、その手が勝利に繋がりやすいことを示していました。このプログラムは、数百回のゲームプレイを通じて学習し、その結果に応じてマッチ箱の中のビーズの数が調整され、進化していくという革新的なものでした。

1965年、ミッキーはエディンバラ大学に機械知能と知覚部門を設立し、初代責任者となりました。この部門は、同大学の計算機科学部門よりも先に創設され、ミッキーがいかに人工知能研究に力を注いでいたかを物語っています。1985年には、エディンバラ大学を離れ、グラスゴーにチューリング研究所を創設。晩年まで自然言語処理や知能理論の研究コミュニティで活発に活動し、特に最後の10年間は慈善団体「The Human Computer Learning Foundation」の活動に尽力しました。2007年に亡くなる直前まで研究活動を続け、自然言語システム「Sophie Natural Language System」に関する論文や、著作「Jehovah's Creatures（エホバの創造物）」の原稿を完成させていました。

また、ミッキーはプログラミングにおける効率的な手法である「メモ化」の技術を発明したことでも知られています。この技術は、プログラムの実行速度を向上させるために、以前に計算した結果を記憶しておくというものです。

その他

ミッキーは、英国コンピュータ学会フェロー、エジンバラ王立協会フェロー、米国科学アカデミー名誉フェロー、スロベニア芸術科学アカデミー名誉フェローなど、数々の栄誉に輝いています。

ミッキーは3度結婚しており、2度目の妻は生物学者のアン・マクラーレンでした。最初の妻との間に1人、アン・マクラーレンとの間に3人の子供をもうけ、そのうちの1人は経済学者、もう1人は心理学者として活躍しています。マクラーレンとは離婚後も友人関係を続け、3人目の妻が亡くなった後には再び親密な関係に戻りました。そして、2007年7月7日、ミッキーとマクラーレンは、ロンドンからケンブリッジへ向かう途中の自動車事故で、共にその生涯を閉じました。

ドナルド・ミッキーの生涯は、戦争における国家への貢献から、科学研究の最前線での活躍、そして慈善活動への献身に至るまで、多岐にわたる分野での卓越した才能と情熱によって彩られています。彼の功績は、現代のコンピュータ科学と人工知能研究に大きな影響を与え続けています。

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