ドニプロ戦線 (2022年–現在)

ドニプロ戦線：南部戦域における激戦地

ドニプロ戦線は、ロシアによるウクライナ侵攻の南部戦域において、ドニエプル川沿岸を舞台に繰り広げられている一連の戦闘を指します。特に、ヘルソン解放を目指すウクライナ軍と、支配を維持しようとするロシア軍の間で激しい攻防が展開されています。この戦線は、ウクライナ南部の戦略的な要衝であり、戦況を左右する重要な要素となっています。

戦闘の背景

ロシア軍は侵攻初期に、ポチョムキン島を占領し、キンバーン砂州も制圧しました。キンバーン砂州は、ロシア軍にとってドニエプル川右岸のウクライナ支配地域へのミサイル攻撃の発射拠点として利用されました。ウクライナ軍は、当初からこの地域の奪還を目指し、様々な作戦を展開しました。

ウクライナ軍による初期の攻撃と交戦

2022年4月、ウクライナ軍はキンバーン砂州での「海岸偵察」作戦を開始し、9月には特殊部隊が偵察活動を行いました。その後、ロシア軍の装備や弾薬庫への攻撃を成功させました。10月には、ウクライナ海軍の艦艇が砂州のロシア軍に向けてロケット弾を発射したと見られる動画が公開されました。また、ウクライナ軍はドニエプル川を渡ってザポリージャ原子力発電所方面への上陸を試みましたが、ロシア軍に撃退されました。しかし、その後もウクライナ軍は、同地域への攻撃を継続しました。

ヘルソン反攻と戦況の変化

2022年のヘルソン反攻では、ウクライナ軍はヘルソン州とムィコラーイウ州からロシア軍を徐々に追い詰め、ドニエプル川右岸地域を解放しました。この反攻作戦によって、キンバーン半島を除くムィコラーイウ州全域がウクライナの支配下に置かれました。しかし、その後もキンバーン砂州やポチョムキン島では戦闘が継続しました。

ウクライナ軍の侵入の激化

ヘルソン反攻後、ウクライナ軍はキンバーン砂州への限定的な上陸を試みました。11月には、砂州周辺で50回以上の攻撃を行い、ロシア軍に損害を与えました。12月には、ウクライナ軍はドニエプル川東岸に侵入し、ポチョムキン島でも戦闘が激化しました。2023年1月には、ウクライナ軍は島に陣地を築いたとみられています。その後も、ウクライナ軍は、ドニエプル川左岸への上陸作戦を試み、一時的に陣地を確保しましたが、ロシア軍の砲撃により撤退を余儀なくされました。しかし、ウクライナ軍は、着実に東岸への侵入を続けました。

カホフカダムの破壊と新たな展開

2023年6月6日には、カホフカダムが破壊され、ドニエプル川下流の水位が上昇しました。この事件により、ポチョムキン島は部分的に水没し、周辺地域は大規模な洪水に見舞われました。洪水によって、ロシア軍は人員と物資の両方に損害を受け、ドニエプル川の前線から撤退しました。ウクライナ軍は、洪水の影響で本土から切り離されたキンバーン砂州に上陸しました。この事件を機に、ロシア軍はドニエプル川東岸から戦力を移動させ、ウクライナ軍も東岸に兵力を再配置しました。

クリンキへの侵入と激化する戦闘

2023年10月、ウクライナ軍はドニプロ川下流を渡河し、クリンキ村などを制圧しました。ロシア軍は、これらの地域からの排除に失敗し、ウクライナ軍は、東岸に複数の橋頭堡を築きました。その後も、両軍の間で激しい戦闘が継続しました。ウクライナ軍は、ドローンや砲撃の支援なしで、水没した地域での前進を強いられ、多大な損害を被りました。しかし、ウクライナ軍は、航空戦力の増強によって状況を改善させようとしています。

環境への影響

この戦争は、キンバーン砂州の固有の植物や野生動物に深刻な影響を与えています。爆撃や汚染物質によって、イルカが死亡し、土壌や砂は化学物質や外来種の脅威にさらされています。火災も発生し、砂州の生態系に永続的な被害をもたらしています。

まとめ

ドニプロ戦線は、ロシアのウクライナ侵攻における南部戦域の要衝であり、戦略的に重要な地域を巡る戦いが激化しています。ウクライナ軍は、ヘルソン解放を目指し、ドニエプル川を渡って東岸への侵入を継続しており、ロシア軍は、支配を維持しようと必死に抵抗しています。この戦線は、両軍に多大な損害をもたらし、戦況を左右する重要な要素となっています。

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