ドミトリー・ミリューチン

ドミトリー・アレクセーエヴィッチ・ミリューチン伯爵は、帝政ロシアの政治家、軍人、軍事史家として、19世紀後半のロシアに大きな影響を与えました。1816年にモスクワで生まれたミリューチンは、1836年にニコライ軍事アカデミーを卒業後、軍人の道を選びます。

1839年にはカフカース戦争に従軍し、その戦術における科学的評価を重視しました。負傷によりペテルブルクに戻った後は、士官学校で教鞭を執り、戦術論の研究に取り組みました。彼の最初の包括的戦術論は高く評価され、1847年にはデミドフ賞を受賞しています。ミリューチンは、アレクサンドル・スヴォーロフを理想の軍司令官と仰ぎ、特にイタリア戦役におけるスヴォーロフの活躍を高く評価しました。1852年から1853年にかけて、全五巻に及ぶ軍事評論を発表し、軍事思想家としての地位を確立しました。

1855年、カフカース軍参謀総長として現役に復帰し、1859年には北カフカースのイスラム指導者シャミールを逮捕、拘束することに成功し、長年続いたカフカース戦争の収束に貢献しました。

クリミア戦争の敗北を分析する中で、ミリューチンは軍制改革の必要性を痛感し、その骨子を発表しました。この改革案は、アレクサンドル2世の目に留まり、1860年に陸軍次官、1861年には陸軍大臣に任命され、軍制改革の実行を託されました。

ミリューチンが主導した軍制改革は、ロシア軍の近代化を推し進めるものでした。その核となるのは、1874年に導入された徴兵制度であり、20歳以上の全ての成年男子に兵役の義務を課しました。また、軍の教育システムも大きく改革され、兵士への基礎教育が徹底されました。さらに、軍における身体罰の廃止や、軍事法務アカデミーの設立など、軍事法制の整備も行われました。これらの改革は、ピョートル大帝以来の徴兵制と職業的傭兵軍からの脱却を意味し、現在のロシア軍の基礎を築いたと言われています。

ミリューチンの軍制改革の成果は、露土戦争の勝利によって証明されました。戦争終結後も、ミリューチンは兵站などの問題点に着目し、その改善に努めました。その功績により、伯爵位と聖アンドレイ勲章を含む数々の勲章が授与されました。

ベルリン会議後には、療養中のアレクサンドル・ゴルチャコフ公爵に代わり、事実上の外務大臣としてロシア外交を主導しました。しかし、1881年のアレクサンドル2世暗殺事件を契機に、内務大臣ミハイル・ロリス＝メリコフと共にその地位は不安定となります。新帝アレクサンドル3世の師父であるコンスタンチン・ポベドノスツェフが起草した勅令により、諸改革が頓挫したため、ミリューチンとロリス＝メリコフは辞任を余儀なくされました。しかし、1898年にはアレクサンドル3世により陸軍元帥の称号を授与され、その功績が改めて称えられました。

ミリューチンは、軍人、政治家、軍事史家として、多岐にわたる分野で活躍しました。特に、ロシア軍の近代化に大きく貢献した軍制改革は、彼の最大の功績として、歴史に名を残しています。彼の軍事理論と実践は、後世の軍事戦略にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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