ミハイル・ロリス＝メリコフ

ミハイル・タリエロヴィッチ・ロリス＝メリコフ伯爵は、19世紀の帝政ロシアにおいて、軍人、政治家として重要な役割を果たした人物です。アルメニア貴族の家系に生まれ、ロシア帝国陸軍の騎兵大将、侍従武官などを歴任し、アレクサンドル2世の下で内務大臣を務めました。

生い立ちと軍歴

1825年（または1826年）、ロリス＝メリコフはチフリス（現在のトビリシ）で誕生しました。サンクトペテルブルクに移り、ラザレフ東洋言語学校、ロシア近衛軍士官学校で学びました。軍に入隊後は軽騎兵連隊に所属し、1847年にはカフカスに赴任。この地で20年以上を過ごし、その間に騎兵隊を鍛え上げ、優秀な騎兵将校としてだけでなく、有能な軍事官僚としての評判を確立しました。1851年には、投降してきたハジ・ムラートを迎えますが、ハジ・ムラートが対立の末に命を落とすという事件も経験しました。

ロリス＝メリコフは、峻烈な兵士であると同時に、管理者・軍事官僚としては、戦時体制から平時への移行を常に意識していました。元々教職を志望していたこともあり、その配慮の行き届いた行政手腕は、数々の業績につながったと評価されています。

露土戦争での活躍と昇進

1877年、露土戦争が勃発すると、ロリス＝メリコフは騎兵部隊を率いてトルコ戦線に転戦しました。アルダハン要塞を奪取した後、ゼービンでムフタール・パシャに撃退されますが、その後アラズィーで敵軍を打ち破り、カルスを占領、さらにエルズルムを包囲するなど、目覚ましい戦功を挙げました。これらの功績により、伯爵の位と聖ゲオルギー勲章を授与されました。

内務大臣としての活躍

1878年、ロリス＝メリコフは下ヴォルガ地域の暴動を鎮圧するため、臨時総督に任命されました。総督として、ニヒリストやアナーキストの鎮圧に成功し、その手腕は中央政府からも注目されました。ナロードニキが先鋭化し、テロリズムが横行する中で、ロリス＝メリコフの成功は、1880年2月、アレクサンドル2世暗殺未遂事件をきっかけに設置された最高指揮委員会の長官就任へとつながりました。

カフカスでの経験と同様に、ロリス＝メリコフは、サンクトペテルブルクでも、特別法や超法規的措置ではなく、通常の法律の範囲内で対処することを明確に示しました。彼は、より良い政策を実行することが、国民の不満を解消し、テロの根源を絶つことができるという信念を持っていました。アレクサンドル2世に対し、行政改革と財政改革を目的とした2つの起草委員会の設立を進言しました。皇帝もまた、従来の警察力による抑圧策の限界を認識しており、ロリス＝メリコフの提案に注目しました。1880年8月、最高指揮委員会は解散され、ロリス＝メリコフは内務大臣に任命されました。

内務大臣として、ロリス＝メリコフは政治状況の安定化のため、反動的な閣僚を退任させ、秘密警察として悪名高い皇帝官房第三部を廃止しました。さらに、立憲制導入に向けた第一歩として、ゼムストヴォ（地方自治組織）と大都市自治会から選出された代表を一般委員会に参加させ、国家評議会にゼムストヴォなど社会諸機関から代表委員15名を参加させることを骨子とした政治改革案を提案しました。当初は消極的であったアレクサンドル2世も、最終的にはこの改革案を承認しました。

改革の挫折と最期

1881年3月1日、アレクサンドル2世はロリス＝メリコフの改革案を承認したその日、「人民の意志」のソフィア・ペロフスカヤが指揮するテロリストによって暗殺されました。新帝アレクサンドル3世は、ロリス＝メリコフの改革案を白紙に戻し、皇帝専制の不動性を宣言しました。これを受けて、1881年5月4日、ロリス＝メリコフは陸相ドミトリー・ミリューチン、蔵相アレクサンドル・アバザーとともに辞任し、改革は頓挫しました。ロリス＝メリコフは、1888年12月24日にニースで亡くなりました。

ロリス＝メリコフの改革は、ロシアの立憲制への移行を試みるものでしたが、アレクサンドル2世の暗殺という悲劇によって、その夢は儚く散りました。しかし、彼の業績は、ロシア史において重要な一ページとして記憶されています。

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