ドメニコ・フォンターナ

ドメニコ・フォンターナ：ルネサンス後期のローマを築いた建築家

ドメニコ・フォンターナ（1543年 - 1607年6月28日）は、イタリアのルネサンス後期を代表する建築家です。スイスとの国境に近いルガーノ湖畔の小さな村、メリーデに生を受け、晩年はナポリでその生涯を終えました。

ローマでの研鑽と飛躍

若くしてローマへと赴いたフォンターナは、当時の巨匠ミケランジェロをはじめとする先達の作品、そして古代ローマの遺構から深く学び、建築家としての知見を磨きました。彼のキャリアにおいて転機となったのは、モンタルト枢機卿（後の教皇シクストゥス5世）との出会いです。

フォンターナが最初に手掛けた重要なプロジェクトの一つは、モンタルト枢機卿のためにローマのパスクイーノ広場近くに建設された別荘、ヴィッラ・モンタルト（ヴィッラ・パッレッティとも呼ばれる）でした。この仕事を通じて、彼は枢機卿からの信頼を得ることになります。

シクストゥス5世治世下での大事業

モンタルト枢機卿が1585年に教皇シクストゥス5世として即位すると、フォンターナの建築家としての才能は最大限に活かされることになります。シクストゥス5世は、中世以来荒廃が進んでいたローマの都市インフラを整備し、新たな都市景観を創造するという壮大な計画を推進しました。フォンターナは、その教皇のもとで主要な建築家および都市計画家として抜擢され、数々の重要な事業を指揮しました。

彼のローマにおける主要な業績は多岐にわたります。

宮殿および行政施設:

ラテラーノ地区の大規模な再開発を手掛け、ラテラーノ宮殿、ベネディツィオーニの回廊、そして「聖なる階段」として知られるスカーラ・サンタを含む複合施設を1586年から1588年にかけて建設しました。これは、ローマ司教座聖堂が置かれるラテラーノの歴史的、宗教的重要性を示す事業でした。
バチカンにおける教皇宮殿の拡張と整備（1587年）にも携わりました。
クイリナーレ宮殿の一部、特にモンテカヴァッロ広場に面した部分の建築にも関わっています。

公共インフラと都市計画:

古代ローマ時代に機能していた水道システムを再興し、新たな水源からローマ市内に水を供給するフェリクス水道を建設しました。この水道の終着点には、有名なモーゼの泉（モーゼの噴水、Fontana dell'Acqua Felice）を設計・建設（1587年）。これはルネサンス期に建設された最初の記念碑的な泉の一つです。
ローマ市内の主要な道路網の整備にも貢献し、特にクアットロ・フォンターネ（四つの泉）の辻を含むフェリーチェ通り（Via Felice）の実現に重要な役割を果たしました。

教会と宗教施設:

サン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会（フランス人のための国立教会）の改築を1589年に行いました。
* サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂内に、システィーナ礼拝堂を建設しました。これは教皇シクストゥス5世（本名フェリーチェ・ペレッティ）のために建てられた霊廟礼拝堂です。

オベリスク移設：驚異の技術

フォンターナの業績の中でも特に有名で、当時の技術水準から見て驚異的だったのが、ローマ各地に埋もれていたり倒壊していた古代エジプトやローマのオベリスクを主要な広場に移設・再建した事業です。

彼は、ヴァチカンのサン・ピエトロ広場、ポポロ広場、サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラーノ広場、そしてエスクイリーノ広場に、それぞれ巨大なオベリスクを据え付けました。これらのオベリスクは、単なる記念碑ではなく、シクストゥス5世が計画した新たな都市軸（巡礼路や主要道路）の結節点を示すランドマークとなり、ローマの都市景観を劇的に変貌させました。特にサン・ピエトロ広場のオベリスク移設は、多くの技術者が見守る中で行われた一大プロジェクトであり、フォンターナの名声を不動のものとしました。

また、古代ローマ皇帝の記念柱であるトライアヌスのコロンナとマルクス・アウレリウスのコロンナ周辺の整理も手掛けています。

晩年と評価

シクストゥス5世の死後、フォンターナは一時的に影響力を失いましたが、後にナポリへ移り、そこで建築活動を続けました。彼は1607年にナポリで波乱の生涯を終えました。

ドメニコ・フォンターナは、ルネサンス建築の伝統を受け継ぎつつ、続くバロック様式への橋渡しをする過渡期の建築家として位置づけられます。その合理的かつ機能的な設計思想、そしてオベリスク移設に象徴される卓越した土木・建設技術は、単に美しい建築物を創造するだけでなく、都市全体のインフラ整備や空間構成に大きく貢献しました。彼の業績は、現在のローマの景観を形成する上で不可欠な要素となっています。

もう一度検索