ドメニコ・モンタニャーナ

ドメニコ・モンタニャーナ（Domenico Montagnana、1686年 6月24日 - 1750年 3月6日）は、イタリアのヴェネツィアで活動した高名な弦楽器製作者です。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスなど、一連の優れた楽器群を世に送り出し、「モンタニャーナ」として今なお世界中の音楽家や愛好家から尊敬を集めています。特に彼が手掛けたチェロは、その独特の形状と豊かな響きから高い評価を得ており、アントニオ・ストラディバリと並び称される、この時代の最も重要な製作者の一人として位置づけられています。彼の作品は非常に価値が高く、オークションでは数百万ドルもの高値で取引されることも珍しくありません。

生涯

ドメニコ・モンタニャーナは1686年、イタリア北部のヴェネト州レンディナーラで生まれました。父パウロは靴職人でした。彼は7人兄弟の長子でしたが、幼い頃の1695年に母を亡くしています。その後、彼はヴェネツィアへ移り、当時著名な弦楽器製作者であったマッテオ・セラース1世（Matteo Sellas I）の工房で弟子として修行を積みました。このヴェネツィア派の伝統を受け継ぎつつ、自身のスタイルを確立していきます。

1712年、モンタニャーナはヴェネツィア市内のサント・ステファノ広場に近いカッレ・デッリ・スターニェーリ（Calle degli Stagneri）に、自らの工房「アラ・クレモナ（Alla Cremona）」を開設しました。この名称は、当時楽器製作の中心地であったクレモナへの敬意を示したものと考えられます。彼はこの工房で、ヴェネツィア派の特徴である独特のニスや、優雅な曲線を持つ楽器を製作しました。彼の活動時期は、奇しくもアントニオ・ストラディバリが最盛期を迎えていた頃と重なります。私生活では、ヴェネツィアでカテリーナ・ベルティ（Caterina Berti）と結婚し、複数人の娘をもうけました。ドメニコ・モンタニャーナは、その生涯の大部分をヴェネツィアで過ごし、1750年にこの地で没しました。

楽器の特徴

モンタニャーナの楽器の中で、特にチェロはその外観と音響特性において顕著な特徴を示しています。彼のチェロの一部は、現代において主流となっているストラド型と比較して、著しく幅広な設計が採用されています。特にアッパーバウツ（上部の膨らみ）の幅が38cmを超えるものもあり、これは標準的なチェロケースには収まらないサイズのため、特注のケースが必要となる場合があります。このような幅広のモデルは「モンタニャーナ型」と呼ばれ、豊かで深みのある低音の響きに特徴があるとされています。ただし、モンタニャーナが製作した全てのチェロが幅広であったわけではなく、今日一般的なサイズに近いモデルも存在します。彼の革新的な形状は、その後の弦楽器製作者たちにも影響を与え、模倣の対象となりました。

死後の影響と工房の継承

モンタニャーナの死後、彼の工房は娘の一人と結婚したジョルジョ・セラフィン（Giorgio Serafin）によって継承されました。しかしながら、ジョルジョはモンタニャーナの高度な製作技術、特に特徴的な幅広のチェロのスタイルを受け継ぐことはなかったようです。彼は高名な弦楽器製作者サンクトゥス・セラフィン（Sanctus Seraphin）の甥であり弟子でしたが、サンクトゥスの影響はジョルジョの楽器に見られる一方、モンタニャーナのスタイルは継承されませんでした。ジョルジョは楽器の新規製作よりも、既存の楽器の修理やメンテナンスに多くの時間を費やしたとされており、彼自身の製作数は少ないとされています。奇妙なことに、ジョルジョ・セラフィンは後にモンタニャーナの師であるマッテオ・セラース1世の孫にあたるズアンネ・セラース（Zuanne Sellas）が引退した後の工房も引き継いでいます。

レンディナーラのモンタニャーナの生家は、1857年のオーストリア政府による市街地再開発計画によって取り壊されてしまいましたが、故郷では現在も彼の功績を称える活動が行われています。特に、レンディナーラではモンタニャーナが製作した楽器のみを使用して行われるコンサートが毎年開催されており、彼の遺した音色を現代に伝えています。

著名なチェロと使用者

ドメニコ・モンタニャーナが手掛けた楽器は100台以上が現存すると考えられており、特に彼のチェロは世界的な演奏家によって愛用されています。代表的な例として、以下のような名器とその使用者があげられます。

Petunia (1733年製) - ヨーヨー・マ氏
Esquire (1723年製) - トルルス・モルク氏
Feuermann (1735年製) - スイスの個人コレクター所蔵
Ex-Servais (1738年製) - ナサニエル・ローゼン氏
Mighty Venetian (1738年製) - ナサニエル・ローゼン氏、かつてアドリアン＝フランソワ・セルヴェ氏使用
Sleeping Beauty (1739年製) - 故ハインリヒ・シフ氏、イギリスのバークレー城に長年保管されていたことで知られる
Sleeping Princess (製作年不明) - 故グレゴール・ピアティゴルスキー氏
Domenico Montagana (1725年製) - ミッシャ・マイスキー氏
Domenico Montagana (1740年製) - スティーヴン・イッサーリス氏
Domenico Montagana (製作年不明) - 木越洋氏（かつて使用）

ドメニコ・モンタニャーナは、ヴェネツィア派の弦楽器製作の歴史において、極めて重要な人物です。彼の革新的なデザイン、特に幅広チェロの豊かな響きは、後の世代にも大きな影響を与え、現代においても彼の製作した楽器は最高の演奏家たちによって受け継がれ、その美しい音色を響かせています。

もう一度検索