ドリトル先生の楽しい家

『ドリトル先生の楽しい家』は、ヒュー・ロフティングによる『ドリトル先生』シリーズの最終巻にあたる短編集です。1952年に刊行され、シリーズ12作目となります。ロフティングの死後、妻と義妹の手によって、彼の遺稿から編まれた作品です。

本書には、8つの魅力的な短編が収録されています。これらの物語の多くは、過去の作品に収録される予定だったエピソードを再構成したものと考えられます。中には、ロフティング生前にも気に入っていたというエピソードも含まれており、その魅力的な物語の数々は、読者に多様な楽しみを提供します。

物語の舞台は、ドリトル先生の住むイングランドの田舎町パドルビーだけにとどまりません。ロンドンや西アフリカといった、多様な場所が舞台として描かれています。それぞれの物語は、個性豊かな動物キャラクターたちをフィーチャーしており、読者は彼らと共感し、笑ったり、感動したりするでしょう。

本書の魅力の一つは、動物たちの視点を通して描かれる、人間社会の様々な側面です。例えば、人間の傲慢さや無知、そして動物たちへの無理解といった問題が、ユーモラスかつ鋭い視点で描かれています。これらの描写は、子どもたちに社会問題への意識を高める機会を提供すると同時に、動物への共感と敬意を育むことに役立ちます。

また、本書はドリトル先生と動物たちとの温かい絆を再確認できる作品です。先生は常に動物たちの味方であり、困っている動物たちを助けるために尽力します。動物たちとの交流を通して、先生自身も成長し、人間としての深みが増していく様子が描かれています。

本書に収録されている短編には、以下のようなものがあります。

船乗り犬: 海で遭難した船乗り犬ローバーの物語。
ぶち: 猟犬ぶちが、飼い主の過剰な愛情に悩む物語。
犬の救急車: ドリトル先生と動物たちが、怪我をした犬を助けるために奮闘する物語。
気絶した男: ドリトル先生と探偵犬クリングが、事件の謎を解き明かしていく物語。
カンムリサケビドリ: ロンドン動物園を舞台にした、鳥たちのユーモラスな物語。
あおむねツバメ: アフリカを舞台にした、ツバメたちとドリトル先生の冒険物語。
虫ものがたり: クルミの実に寄生していた蛆の、壮大な冒険物語。
迷子の男の子: 迷子の男の子とドリトル先生が、動物園で巻き起こす騒動を描いた物語。

これらの物語は、それぞれ異なる魅力を持っていますが、共通しているのは、動物たちへの深い愛情と、ユーモアあふれる描写です。子供だけでなく、大人も楽しめる作品として、高い評価を得ています。

『ドリトル先生の楽しい家』は、長らく岩波書店版のみが出版されていましたが、2015年には角川つばさ文庫より新訳版が刊行され、より多くの読者に親しまれるようになりました。新訳版には、日本語訳初となるエピソードも収録されており、さらに充実した内容となっています。

本書は、動物が大好きな子どもたち、そして心温まる物語を求める全ての人々に、心からおすすめできる一冊です。読み終えた後には、きっと動物たちへの愛と理解が深まっていることでしょう。

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