ドリトル先生月へゆく

ドリトル先生月へゆく：月世界探検と意外な帰還

ヒュー・ロフティングによる人気児童文学シリーズ「ドリトル先生」の第8作目、『ドリトル先生月へゆく』（原題: Doctor Dolittle in the Moon）は、前作『月からの使い』に続く物語です。本作最大の特徴は、シリーズを通して主人公であるドリトル先生ではなく、彼の助手であるトミー・スタビンズの視点から物語が語られる点です。これはシリーズ4作目となります。

物語は、巨大な蛾に乗って月へとたどり着いたドリトル先生、トミー、オウムのポリネシア、チンパンジーのチーチーの月面での冒険から始まります。彼らは月面で、地球のものとは比べ物にならないほど巨大で長寿の植物を発見し、驚きを隠せません。月へ来た目的は不明瞭なまま、先生たちは月面の地理や生態系の調査を開始します。

調査を進める中で、先生は驚くべき発見をします。月面の植物たちと意思疎通することに成功したのです。先生は、月世界の植物、昆虫、鳥たちが「会議」と呼ばれる組織によって統治され、戦争を未然に防ぐ民主的な社会を築いていることを知ります。しかし、「会議」の全貌については、どの植物も語ろうとはしません。

やがて、先生たちの前に「会議」の議長が現れます。それは、かつてチーチーが祖母から聞いた伝説に登場する彫刻家、オーソ・ブラッジでした。オーソは、地球での大噴火によって月へ飛ばされ、月世界の住民と共に「会議」を設立した人物です。地球よりも低い重力と栄養価の高い食物のおかげで、オーソは巨体となっていました。彼は足のむくみに苦しんでおり、カワセミからドリトル先生の名を聞き、先生に治療を依頼したのでした。

先生は月で診療所を開設し、オーソや他の生き物たちの治療を始めます。しかし、トミーの両親が息子の消息を案じていることを知ったオーソは、先生たちが地球へ帰ってしまうのではないかと心配します。そこで、トミーが水を汲みにいっている隙に、密かに彼を巨大な蛾、ジャマロ・バンブルリリイに乗せて地球へ送り返してしまうのです。

月での数週間の生活で巨体となったトミーは、所持金ゼロの状態からサーカス団の見世物として働き、やっとの思いで故郷のパドルビーに戻ります。そして、先生を待つ動物たちに、ポリネシアからのメッセージを伝えます。「先生が帰還する際には、月面から狼煙を上げる」と。

この作品は、これまでのドリトル先生シリーズとは異なり、SF的な要素を強く含んでいます。月世界の描写は独特で、想像力を掻き立てられるものとなっています。また、本作は当初、先生を月面に置き去りにしたままシリーズを完結させる予定でした。しかし、読者からの強い要望により、先生を地球へ帰還させる続編が書かれることとなりました。このことは、本作が読者からのフィードバックを受けてシリーズ全体の展開に影響を与えたことを示す興味深い例となっています。

日本語版については、長らく岩波書店版のみが出版されていましたが、2013年には角川つばさ文庫より新訳版が刊行され、より多くの読者がこの魅力的な物語に触れることができるようになりました。岩波書店版と新訳版、それぞれの翻訳の味わいを比較してみるのも面白いでしょう。 ドリトル先生シリーズの中でも特に異彩を放つ本作は、新たな視点と冒険を提供し、読者に忘れられない感動を与えてくれます。

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