ドルスス・カエサル

ドルスス・ユリウス・カエサル：栄光と悲劇の生涯

ドルスス・ユリウス・カエサル (Drusus Julius Caesar, 7年頃 - 33年) は、古代ローマにおいて、その華々しい出生と悲惨な最期によって知られる人物です。将軍ゲルマニクスと大アグリッピナを両親に持ち、ローマ皇帝ティベリウスの後継者候補として大きな期待を寄せられていました。

7年頃、輝かしい家系に生まれたドルススは、兄ネロ・カエサル、弟ガイウス・カエサル（後の皇帝カリグラ）、そして数人の姉妹に恵まれました。彼の父ゲルマニクスは、皇帝アウグストゥスの後継者であるティベリウスの養子であり、母大アグリッピナはアウグストゥスの血を引く名家出身でした。このような高貴な出自は、ドルススをローマ社会における重要な存在として位置づけるものでした。

14年、アウグストゥスの死後、ティベリウスが帝位を継承すると、ゲルマニクスはティベリウスの後継者候補に挙げられました。人気が高く、ゲルマニアでの軍事功績も評価されたゲルマニクスは、内向的なティベリウスとは対照的な存在として注目を集めていました。しかし、19年、ゲルマニクスは急死します。その死因は、シリア総督ピソによる毒殺説が有力でしたが、ピソは裁判前に自殺したため、真相は闇に包まれたままとなりました。

父の死後、ドルススと兄ネロは、ティベリウスの後継者候補としての道を歩むことになります。23年、ドルススは成人式を迎え、元老院議員にも列せられました。しかし、同年に、兄弟たちの後見人であった小ドルススが、親衛隊長官セイヤヌスの陰謀により暗殺されるという悲劇が起きます。これにより、ドルススとネロは、ティベリウスの後継者として、さらに注目されることとなります。

セイヤヌスは権力を掌握しようと野心を燃やし、ティベリウスの後継者争いに介入し始めます。25年、ドルススは首都長官を務めるなど、ローマ社会において重要な役割を担うようになりましたが、セイヤヌスの策略は徐々にドルススとその家族にも及んでいきます。

セイヤヌスはドルススの兄ネロを陥れ、29年にはネロは流刑、母大アグリッピナも流刑となりました。しかし、皮肉なことに、セイヤヌスはドルススに接近し、彼の野心につけ込みます。ドルススは兄への嫉妬と自身の野心から、セイヤヌスの策略に加担していったと考えられています。

30年、ドルスス自身もローマに呼び戻され、公敵として宣言され、カエサル家の地下牢に幽閉されます。31年、セイヤヌスはティベリウスにより粛清されますが、ドルススの幽閉は解かれることはありませんでした。そして33年、ドルススは地下牢で飢餓により命を落としました。

ドルススの死後、彼の苦境の様子は元老院で公にされ、人々に衝撃を与えました。しかし、ティベリウスの死後、弟のカリグラが帝位に就くと、ドルススは名誉回復を果たし、彼の像が公に設置されることになります。

ドルスス・ユリウス・カエサルの生涯は、栄光と悲劇が交錯した、激動の時代を反映するものです。高貴な出自と、皇帝の後継者候補としての期待、そして権力闘争の渦中に巻き込まれたこと、そして最後は悲惨な死。彼の物語は、古代ローマの歴史において、忘れ去られることのない、重要な一ページとして刻まれています。

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