小ドルスス

ドルスス・ユリウス・カエサル：皇帝への道と悲劇的な最期

ドルスス・ユリウス・カエサル（紀元前14年頃 - 紀元23年7月1日）は、ローマ帝国第2代皇帝ティベリウスの息子であり、後継者として将来を嘱望された人物です。一般には「ドルスス」と呼ばれ、ティベリウスの異母弟である大ドルススと区別するために「小ドルスス」と呼ばれることもあります。

幼少期と華麗なるキャリア

ティベリウスと最初の妻ウィプサニアとの間に生まれたドルススは、アウグストゥスとは直接の血縁関係がありませんでした。複雑な家族関係の中で、幼少期は父ティベリウスの政治的判断によって影響を受けます。父の再婚、ロドス島への隠棲、継母ユリアの追放など、不安定な環境の中で育ちながらも、アウグストゥスの庇護を受け、政治キャリアを着実に歩んでいきました。

ティベリウスがアウグストゥスの養子となり後継者となると、ドルススもアウグストゥスの支援を受け、着実に地位を築き上げていきます。叔父である大ドルススの息子ゲルマニクスとは義兄弟となり、ゲルマニクスの妹リウィッラと結婚しました。アウグストゥス崩御後の紀元14年には翌年の執政官に指名され、アウグストゥスの遺言では第2位相続人として遺産の3分の1を相続する権利を得ています。これは、ゲルマニクスとその子供たちと共に、ティベリウスの後継者としてアウグストゥスがドルススを期待していたことを示唆しています。アウグストゥスの追悼演説をフォルム・ロマヌムで行ったことからも、その特別な地位が見て取れます。

軍事的功績と政治的立場

アウグストゥスの死後、父ティベリウスが元首に就任すると、パンノニアとゲルマニアで軍団の反乱が発生しました。ドルススはパンノニアへ派遣され、反乱を鎮圧。交渉を試みた後、厳罰をもって反乱を制圧し、その手腕を見せつけました。紀元15年には執政官に就任し、ゲルマニクスと共に剣闘士試合を開催するなど、ローマ市民の人気も獲得していきました。

その後、イリリクムに派遣され、スエビ族とケルスキ族の対立の調停に尽力。マロボドゥスをローマに亡命させるという成果を挙げ、小凱旋式を許されています。同時期に妻リウィッラとの間に双子が誕生するなど、私生活でも充実した日々を送っていました。しかし、紀元19年には義兄弟のゲルマニクスがシリアで急死するという悲劇に見舞われます。ドルススはゲルマニクスの遺骨を迎えにローマへ戻り、その死を深く悼みました。ゲルマニクスの葬儀の後、再びイリリクムに戻り任務を全うし、ローマに戻ってからは、ゲルマニクス暗殺の容疑者とされていたグナエウス・カルプルニウス・ピソの裁判にも臨んでいます。

後継者としての確実な地位と謎の死

紀元21年には父ティベリウスと共に2度目の執政官に就任しました。これは、ゲルマニクスの死後、ドルススが事実上の後継者として認められたことを意味しています。ティベリウスが健康を理由にカンパニアに滞在するようになると、ドルススはローマにおける実権を掌握し、翌22年には護民官職権も授与されています。完全に皇帝の地位が約束されたかに見えたその時、ドルススは急死します。当初は急病死とされましたが、その死の真相は、8年後のセイヤヌスの失脚によって明らかになります。セイヤヌスは、ドルススの妻リウィッラと通じてドルススを毒殺したのです。セイヤヌスはティベリウスの寵臣であり、ドルススの野心を恐れて暗殺に及んだとされています。

ドルススの死は、古代ローマにおける権力闘争の残酷さを象徴する出来事であり、彼の才能と将来性、そして悲劇的な最期は、後世に深い謎と疑問を残しました。アウグストゥス廟に安置された彼の遺骨は、かつての栄光と陰謀の余韻を静かに伝え続けているかのようです。

もう一度検索