ドレミのうた

「ドレミの歌」：長く愛される名曲の軌跡

ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』(1959年)で、マリア先生とトラップ家の子供たちが歌う「ドレミの歌」(英: Do-Re-Mi)は、オスカー・ハマースタイン2世作詞、リチャード・ロジャース作曲の、世界中で愛唱される名曲です。映画化されたことでさらに知名度を高め、現在に至るまで、子供たちが初めて学ぶ歌の一つとして親しまれています。

歌詞とメロディーの巧みな構成

この歌の魅力は、歌詞の冒頭とメロディーの冒頭が共に「ドレミファソラシド」で始まる点にあります。このシンプルな構成が、音名学習に最適であるとされています。この発想は、イタリア語の音名「ドレミ」の由来となった『聖ヨハネ賛歌』に通じるものがあり、古くから続く音楽教育の伝統を感じさせます。

日本における「ドレミの歌」：ペギー葉山版を中心に

日本では、映画版でマリアを演じたジュリー・アンドリュースの歌唱がシングルカットされ発売されるなど、英語詞バージョンも人気を博しました。しかし、日本において最も広く知られているのは、歌手ペギー葉山が自ら訳詞・歌唱した日本語版です。

ペギー葉山は、1960年にロサンゼルスでの日米修好100年祭参加中にブロードウェイで『サウンド・オブ・ミュージック』を鑑賞し、感銘を受け、自ら楽譜を購入して日本語詞を創作しました。1961年にはLPで発売され、1962年にはNHK『みんなのうた』で放送。その後も様々なシングルレコードで発売され、音楽教科書にも掲載されるなど、長く愛され続けることになります。

ペギー葉山版の特徴は、アメリカのイメージが強い「ドーナツ」が登場するなど、原曲のオーストリアを舞台にした物語とは異なる独自の歌詞になっている点です。この歌詞は、ペギー葉山自身の戦時中の体験を反映したものであり、当初は音名全てに食べ物の言葉を当てはめようとしていたという逸話も残っています。2番の歌詞は、東北地方でのコンサート中に見た小学校の運動会をイメージして創作されたもので、英語原詞には存在しないオリジナル部分です。

ペギー葉山版は、2007年からの劇団スイセイ・ミュージカル、2010年の劇団四季による『サウンド・オブ・ミュージック』公演でも採用されるなど、ミュージカル公演でも使用されるようになりました。ジュリー・アンドリュースも来日コンサートでペギー葉山版を一部歌唱したというエピソードも残っており、日本における「ドレミの歌」を象徴するバージョンとして確固たる地位を築いています。

さらに、アニメ『トラップ一家物語』の主題歌にも採用され、1995年にはNHK番組を通じて、ペギー葉山は当時のトラップ家の人々と対面を果たすなど、様々な形で社会に影響を与え続けています。近年ではバラエティ番組でも取り上げられ、替え歌が披露されるなど、その人気は衰えることを知りません。

その他の日本語版と様々なアレンジ

ペギー葉山版以外にも、宮城まり子、滝弘太郎、宮本亜門、岩谷時子など、多くの作詞家・歌手によって日本語版が制作されています。それぞれのバージョンで歌詞や解釈が異なり、多様な表現が楽しめるのも「ドレミの歌」の魅力の一つです。越路吹雪、九重佑三子など、様々な歌手が歌唱しており、それぞれ個性豊かな解釈でこの曲を歌い上げています。テレビ番組のテーマ曲として使われたり、替え歌が作られたり、漫才や漫談のネタとして使われたりと、その用途も多岐に渡ります。

音楽史における「ドレミの歌」の位置づけ

「ドレミの歌」は、単なる子供向けの歌謡曲という枠を超えて、音楽教育、文化交流、そしてエンターテイメントの様々な側面で日本社会に影響を与えてきた、稀有な楽曲です。シンプルでありながら奥深い歌詞とメロディー、そして数々の著名な歌手や作詞家によって生み出された多様な日本語版は、今後も多くの人々に愛され、歌い継がれていくことでしょう。

もう一度検索