ドンダーの戦い

ドンダーの戦い

ドンダーの戦いは1788年末から1789年初頭にかけて、西山朝の大越と清の軍との間で行われた重要な戦闘です。この戦いは、ベトナム北部の玉洄（現在のハノイ市タインチ県ゴクホイ社）と埬栘（現在のハノイ市ドンダー区）を舞台に繰り広げられました。中国においてはこの戦闘は清越戦争の一部として知られ、「安南之役」として記されています。

背景

歴史的に見ると、ベトナムの多くの大越皇帝は、数世代にわたり中華皇帝を宗主として認めてきました。後黎朝の時代も同様で、政権は清からの支配を受け入れながら運営されてきました。しかし1787年、後黎朝の都である昇龍を西山朝の将軍、武文任が攻略すると、後黎朝の皇帝である昭統帝は広西に逃れ、清の乾隆帝に支援を求めました。これを受け、清は後黎朝復興の名目で大規模な軍隊を安南に派遣しました。

戦闘の経過

戦闘は1788年10月に始まり、両広総督の孫士毅が清軍の司令官として指揮を執りました。広東や広西、さらには雲南、貴州から強化された部隊が集結し、清は11月19日に昇龍を陥落させることに成功します。その結果、昭統帝は安南国王として封じられましたが、孫士毅は軍政を敷き、同年に発生した飢饉の際には安南の食料を略奪するなど、厳しい統治を行いました。これに対して、多くの地元住民が山岳地帯に逃げ込み、北定王阮恵に救助を求める事態となりました。

阮恵は兄の泰徳帝と対立していましたが、元号を光中とし皇帝を名乗り、乂安で兵を募り、10万人を従えて北上しました。彼は清軍が昇龍の周辺に陣取る中、正月の祝いの気を緩めたところを奇襲し、ドンダーで壊滅的な勝利を収めました。この戦闘で許世亨や尚維昇といった清の将軍が戦死し、多くの兵士が紅河で命を落としました。

戦後の処理

この勝利は現在のベトナムでは歴史的な軍事的勝利の一つとして高く評価されています。しかし、中国においては乾隆年間の「十全武功」の一つとしても認識されています。戦いに勝利した阮恵は、清から提示された「安南国王」の地位を最終的に受け入れ、毎年の朝貢を約束しました。しかし、北伐を行う中で彼と泰徳帝との対立がさらに深まる事態となります。

戦後、孫士毅は総督の座を退き、フカンガンが後任となりました。昭統帝は復興の約束を受け、乾隆帝に謁見するも、安南国王の称号は西山朝に与えられました。彼は月に米1石と銀3両の僅かな扶持を受け取り、1793年には北平で失意のまま亡くなることとなりました。

現在の遺構

今日のハノイ市のドンダー区には、戦没者を追悼するためのドンダーの丘があり、こちらには公園も整備されています。1988年には戦勝200周年を記念して建てられた石碑も存在し、歴史の記憶を留めています。

この戦いは、ベトナムの歴史において、多くの人々に語り継がれ、国のアイデンティティを形成する上でも大きな意味を持つものであると言えるでしょう。

もう一度検索