ドンバスの戦い (2022年)

ドンバスの戦い：2022年ロシアのウクライナ侵攻における激戦

2022年4月18日、ロシア軍はウクライナ東部で大規模な攻勢を開始し、ドンバス地域におけるドネツィク、ルハンシク、ハルキウ各州の支配を巡り、ウクライナ軍との間で激しい戦闘が繰り広げられました。この戦いは、ロシアのウクライナ侵攻の第二段階と見なされ、両軍共に多くの犠牲者を出すこととなりました。

戦闘の概要

ドンバスの戦いは、ルビージュネ-イジューム-フリアイポール-マリウポリラインに沿って展開されました。ロシア軍の目的は、ドンバス地域におけるウクライナ軍の包囲と、ドネツク人民共和国（DPR）およびルガンスク人民共和国（LPR）といった親ロシア派勢力が実効支配する地域を併合することでした。

当初、ロシア軍はドネツク州の55%を支配下に置いたと主張し、7月3日までにルハーンシク州全域を制圧したと発表しました。しかし、その後のウクライナ軍の反撃により、ルハーンシク州の一部地域はウクライナ軍によって奪還されています。

この戦いは、過去のクルスクの戦いや大陸打通作戦と比較されるほど、その規模と戦略的重要性が高いものでした。

戦闘の背景

2022年3月29日、ロシア政府は、キーウ周辺での軍事作戦の縮小を発表し、北部と北東部での作戦を事実上終結させました。そして、ドンバス地域への注力を宣言しました。ロシア軍は、ウクライナ海軍と空軍を無力化したと主張し、DPRとLPRがドネツク州の54%、ルハーンシク州の93%を支配していると述べました。一方、ウクライナ軍が奪還した地域では、ブチャの虐殺といったロシア軍による戦争犯罪が発見されました。

ドンバス地域は、2014年から続くドンバス戦争の中心地であり、ロシアの支援を受けた分離主義勢力とウクライナ軍の間で長期間にわたる戦闘が続いていました。この紛争で、1万人以上の戦闘員と3095人の民間人が命を落としていました。

戦闘の経過

ロシア軍の侵攻開始

2022年2月24日、ロシア軍はドンバスを含む複数の戦線で侵攻を開始しました。マリウポリ包囲戦では、市の95％が破壊され、2万1000人以上が死亡したと推定されています。4月18日までは、前線での大規模な活動は控えられ、偵察活動や小規模な砲撃戦が主でした。

2022年3月11日には、ロシアの戦車がクレミンナの高齢者介護施設を砲撃し、民間人56人が死亡しました。また、4月8日にはクラマトルスク駅へのミサイル攻撃で、59人の民間人が死亡しました。これらの攻撃は、国際社会から非難されました。

ドンバス攻勢の開始

2022年4月中旬、アメリカの諜報機関は、ロシア軍がドンバス地域に部隊を再配置していると報告しました。この動きは、ウクライナ北部から撤退した部隊をドンバスに集中させるものでした。

交戦勢力

ロシア軍は、ドンバス地域に約76個の大隊戦術群（BTG）を集中させ、兵力は6万人と推定されました。DPRとLPRは合計で約2万7000人の兵士を動員しました。さらに、リビア、シリア、エチオピアなどの傭兵も動員されたと報告されています。

一方、ウクライナ軍は正規旅団に加えて、領土防衛隊や外国人義勇兵を動員し、ドンバス地域に約4万4000人から5万人の兵力を配置しました。

戦闘の激化

2022年4月18日、ロシア軍はルハンシク、ドネツク、ハルキウ州の陣地に対する集中砲撃を開始しました。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ドンバスの戦い」が始まったと発表しました。ロシア軍は、クレミンナを制圧し、ルビージュネに進軍、ポパスナの一部を制圧しました。

5月初旬には、ロシア軍が大規模な砲撃作戦と地上攻撃を開始しました。5月7日、ポパスナ市がロシア軍に制圧され、5月12日にはルビージュネも制圧されました。ドネツ川では大規模な戦闘が発生し、ウクライナ軍がロシア軍の渡河作戦を撃退しました。

ロシア軍の進軍

5月20日、ロシア軍はセベロドネツクへの道路を遮断するために、ポパスナの西と南に前進しました。ロシア軍はポパスナ地域を突破し、バフムート方面とセベロドネツク方面に同時進行しました。しかし、その進軍速度は鈍化しました。5月23日には、ロシア軍がリマンを制圧、5月24日にはスビトロダルスク市を制圧しました。

6月1日、ウクライナはセベロドネツクの70〜80％がロシア軍に占領されたと発表しましたが、その後反撃を開始しました。しかし、6月8日にはウクライナ軍はセベロドネツク郊外に押し戻されました。6月10日、ウクライナは弾薬不足に直面していると発表しました。

6月23日までに、ロシア軍はリシチャンシクの南で大きな利益を得ました。ロシア軍は、6月22日にロスクトゥイフカ、ミルナ・ドリナ、ライオレクサンドリフカ、ピドリシネを制圧しました。6月23日にはヒルスケとゾロテを包囲し、翌日までに完全に制圧したと主張しました。6月24日までに、ロシア軍はヒルスケとゾロテを完全に包囲し、6月25日にはウクライナ軍がセベロドネツクから撤退したと発表しました。

7月1日から3日にかけて、ロシア軍はリシチャンシクを制圧し、ルハーンシク州の完全支配を達成しました。スラビャンスクへのロシア軍の砲撃は激化しました。

その後の展開

ルハーンシク州を制圧した後、ロシア軍はドネツク州への攻撃を継続しました。7月上旬には、セベルスク近くの最前線に部隊を集中させ、攻撃を継続しました。一方、ウクライナ軍は、ロシア軍がルハーンシク州を完全に支配していないと主張し、衝突が続いていると述べました。7月17日までに、ロシア軍はドネツク州の55％を支配していました。

7月25日、ロシア軍はベレストヴェを制圧しました。LPRの代表は、ノヴォルハンスケの入り口の看板前にいるワグネル・グループの傭兵の映像をオンラインに投稿しました。7月26日には、ボホレヒルスク発電所を完全に制圧したと主張しました。

7月28日、ウクライナ軍は、ロシア軍がソレダルとヴェルシュニャ付近でわずかな前進を遂げ、アヴディーイウカとピスキーへの攻撃を再開したと発表しました。7月30日には、ゼレンスキー大統領がドネツク地域に残っているすべての民間人に避難を命じました。

8月2日、ロシアのショイグ国防相は、ベレストヴェ、ポクロフスケ、ノヴォルハンスケ、セミヒリア、フリュホリフカ、ストリアピヴカの6つの前線集落を占領したと表明しました。また、アヴディーイウカの南西にあるブティフカ炭鉱周辺のウクライナ軍陣地も占領しました。8月4日には、ロシア軍がピスキーを完全に制圧したと主張しました。

戦闘による犠牲者

軍の死傷者

ウクライナ軍は、ドンバスでの死傷者数を公表していませんが、毎日の死傷者数の推定値を定期的に提供しています。5月下旬には、ドンバス戦線で毎日50人から100人のウクライナ兵が殺害されていました。6月初旬には、毎日最大200人のウクライナ兵が死亡し、800人が負傷していました。

ロシア軍の死傷者については、ウクライナ陸軍東部作戦管区が毎日の死傷者数を公表しています。

民間の死傷者

ロシア軍は民間地域への攻撃を強めました。ルハーンシク州の学校への空爆で民間人60人が死亡しました。イジュームでは、アパートの下の瓦礫から44人の民間人の遺体が回収されました。クレミンナでの戦闘では、200人以上の民間人が死亡し、さらに、戦闘から逃れようとした民間人が4人死亡しました。セベロドネツクでは、1500人以上の民間人が死亡したとされています。7月10日には、チャシブヤールへのロケット攻撃で少なくとも34人が死亡しました。

国連は、7月11日までにドンバス地域で2219人の民間人が死亡、2310人が負傷したと計測しましたが、実際の死傷者数はさらに多いとされています。

まとめ

ドンバスの戦いは、ロシアのウクライナ侵攻において、最も激しい戦闘の一つであり、多くの軍人と民間人の命が失われました。この戦いは、ロシア軍の侵攻目的がドンバス地域の完全制圧にあることを明確にしたとともに、ウクライナ軍の頑強な抵抗を示すものでもありました。

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