ドン・パティンキン

ドン・パティンキン

ドン・パティンキン（Don Patinkin、1922年1月8日 - 1995年8月7日）は、20世紀後半に活躍した著名な経済学者です。彼はアメリカ合衆国イリノイ州シカゴで生まれましたが、後にイスラエルに移住し、同国の学術界、特に経済学の発展に多大な貢献をしました。

生涯

1922年、パティンキンは東ヨーロッパのベラルーシから移住してきたユダヤ系家族のもと、シカゴで生を受けました。彼は学問に秀でており、シカゴ大学に進学して経済学を学ぶ傍ら、ヘブライ神学カレッジにも通い、ユダヤ教の法典や伝説を集めたタルムード研究にも励みました。シカゴ大学では、1943年に学部（BA）を卒業し、続いて1945年に修士号（MA）を取得しました。そして1947年、経済学で博士号（Ph.D）を取得しました。博士課程ではオスカー・ランゲの指導を受け、フランク・ナイトやジェイコブ・ヴァイナーといった著名な学者たちの講義からも多くを学びました。

学位取得後、パティンキンは短期間シカゴ大学やイリノイ大学で教鞭をとりました。しかし、彼は長年、パレスチナにユダヤ人国家を樹立し、イスラエルの繁栄を目指すシオニズム運動に深い関心を寄せていました。この思想に突き動かされ、1949年にイスラエルへ移住することを決断します。イスラエルでは、新しいエルサレムのヘブライ大学に経済学教授として迎え入れられ、以後そのキャリアの大部分をこの地で過ごしました。彼はイスラエル経済学会の会長を務めるなど、イスラエルの経済学研究の水準向上に指導的な役割を果たしました。1959年には学術的功績が認められ、ロスチャイルド賞を受賞しています。また、国際的にもその評価は高く、1975年にはアメリカ経済学会の名誉会員に選ばれました。ヘブライ大学では、1982年から1986年まで学長という要職も務めました。1989年にヘブライ大学を退職した後も研究活動を続けましたが、1995年8月7日、エルサレムで73年の生涯を閉じました。

研究と業績

ドン・パティンキンの経済学における最も重要な貢献の一つは、1956年に出版された主著『貨幣・利子および価格――貨幣理論と価値理論の統合』に集約されています。この著作は、後に貨幣経済学やマクロ経済学が展開される上での基礎を提供したと広く認識されています。著名な経済学者マーク・ブローグは、この本が1960年代から1970年代にかけて花開いた貨幣経済学およびマクロ経済学のほぼ全ての源流を含んでいると評価しています。特に、パティンキンは「実質残高効果」（real balance effect）という概念を用いて、長らく分離して考えられてきた価格理論（ミクロ経済学）と貨幣理論（マクロ経済学）を効果的に統合しようと試みました。

パティンキンの研究は、ケインズ経済学の解釈と発展にも影響を与えました。特に、アクセル・レイヨンフーヴッド、ロベール・クラウワー、エドモン・マランヴォー、アーサー・オーカンといった学者たちが、ケインズ主義経済学を価格調整よりも数量調整が中心であると捉えるようになる過程で、パティンキンの著作が思想的な出発点の一つとなったと言われています。パティンキン自身は、ジョン・メイナード・ケインズのオリジナリティは、他の経済学者が価格の変化にばかり着目していたのに対し、産出や所得といった数量の変化に経済調整の中心要素を見出した点にあると考え、ケインズの着想はきわめて独創的であったと評価しました。

主な著作

『貨幣・利子および価格――貨幣理論と価値理論の統合』、貞木展生訳、勁草書房、1971年（原書1956年）
（J・クラーク・リース共編）『ケインズ、ケムブリッジおよび『一般理論』』、保坂直達・菊本義治共訳、マグロウヒル好学社、1979年
『ケインズ貨幣経済論――その展開過程』、川口弘・吉川俊雄・福田川洋二共訳、マグロウヒル好学社、1979年

外部リンク

Inventory of the Don Patinkin Papers, 1870-1995, David M. Rubenstein Rare Book & Manuscript Library, Duke University. Also includes life chronology.
* References to Patinkin's 'classic' work (on dust jacket of Woodford textbook)

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