ドン・マネー

ドナルド・マネー： 短くも波乱に満ちた近鉄バファローズでの日々

ドナルド・ウェイン・マネーは、1947年ワシントンD.C.生まれのアメリカ合衆国出身の元プロ野球選手です。MLBで輝かしい実績を誇り、オールスターにも選出された実力を持つ内野手でしたが、1984年の春、日本の近鉄バファローズに在籍し、その短い期間に日本の野球界に大きな足跡を残しました。彼の孫であるバディ・ケネディもまた、プロ野球選手として活躍しています。

MLBでのキャリア

1965年、マネーはドラフト外でピッツバーグ・パイレーツに入団。その後、1968年にフィラデルフィア・フィリーズへ移籍し、同年メジャーデビューを果たします。1969年には遊撃手のレギュラーとして定着し、1970年からは三塁手にコンバートされました。1973年にはミルウォーキー・ブルワーズへ移籍し、1973年から1974年にかけて88試合261守備機会無失策という記録を樹立。1974年、1976年～1978年にはMLBオールスターゲームにも選出されるなど、MLBを代表する選手として活躍しました。

近鉄バファローズへの入団と退団

1983年、現役引退も考えていたマネーでしたが、日本の近鉄バファローズから入団の誘いを受けます。当時、日本の野球について全く知識がなかったマネーは、日本球界でのプレー経験がある選手たちに話を聞き、前年に近鉄に在籍していたマイク・エドワーズから「日本の野球はメジャーとそう変わらない。また日本でプレーすることは本当に良い経験になる」という言葉を受け、日本球界入りを決意しました。1984年1月22日、マネーは近鉄と年俸9600万円、トレードマネー7千万円という大型契約で入団。家族を連れて来日し、神戸市に住まいを構えました。

しかし、来日後、マネーは家族とともに生活環境の激変に悩まされることになります。1981年のストライキ中に見た読売ジャイアンツの試合から、日本の球界を「満員の観衆と人工芝の球場」というイメージで捉えていましたが、実際に入団した近鉄は観客も少なく、ロッカールームなどの設備もメジャーリーグとは比べ物にならないほど劣悪でした。また、球団から事前に提示されていた新築マンションではなく、実際には老朽化した中古マンションが用意され、ゴキブリが出るなど居住環境も劣悪でした。さらに、球団からは「神戸には外国人が多く、英語で不便はない」と言われていましたが、実際には英語を話せる人が少なく、家族は買い物にも不自由するなど、ノイローゼ気味になってしまいました。長女も学校での勉強についていけず、ホームシックを訴えるなど、家族全体が苦境に立たされました。

5月に入ると、マネーは球団に対し「家族が重度のホームシックにかかり帰国を希望している」として退団を申し入れます。球団は事態を収拾しようと、住居の改善や待遇改善を提示し、広田順を使者として説得を試みましたが、マネーの決意は固く、最終的に球団はマネーの退団を認めました。入団からわずか3ヶ月後の出来事でした。

記者会見でマネーは「ホームシックにかかっている家族のことを考えると100%の力が出せない」と退団理由を説明。この騒動はスポーツ新聞で大きく報道され、日本の球場のロッカールームの劣悪さが問題視されるようになりました。

その後

帰国後、マネーは2009年から2011年までブルワーズ傘下のAAA級チームで監督を務めました。2014年にはブルワーズの球団殿堂入りを果たし、その功績が称えられています。

ドナルド・マネーの近鉄バファローズでの日々は、短いながらも日本の野球界に大きな影響を与えました。彼の退団は、外国人選手の受け入れ体制や生活環境の問題を浮き彫りにし、球団経営や選手に対するケアの重要性を再認識させるきっかけとなりました。

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