ドン・レンデル

ドン・レンデル（Don Rendell）は、1926年3月4日にイングランドのプリムスに生まれ、2015年10月20日にその生涯を閉じた、イギリスジャズ界において重要な役割を果たしたサクソフォーン奏者です。

テナー・サクソフォーンを主軸としつつ、ソプラノ・サクソフォーン、クラリネット、フルートといった多様な楽器を操る才能を持っていました。彼のキャリアは、初期にはレスター・ヤングやスタン・ゲッツといったクールジャズ／ウエストコーストジャズの巨匠から影響を受け、中期以降はソニー・ロリンズやジョン・コルトレーンといったハード・バップやモードジャズの革新者たちの影響を吸収していきました。この影響は、彼の演奏スタイルが初期のハード・バップ志向から、より自由で構造的なモーダルな表現へと進化していった過程に明確に表れています。

1950年代初頭から、レンデルはイギリスの名門ビッグバンドでプロとしてのキャリアをスタートさせました。ジョニー・ダンクワースやテッド・ヒースといったバンドは、当時のイギリスジャズシーンを牽引しており、こうした環境で彼は経験を積み、その名を確立していきました。

自身のリーダーとしての活動も精力的に行いました。1961年には、「ザ・ニュー・ドン・レンデル・クインテット」名義でアルバム『Roarin'』を発表し、後にジャズロックの旗手となるグレアム・ボンド（当時アルトサックス奏者）との共演が話題となりました。

彼のキャリアにおける最も特筆すべき功績の一つは、1963年にトランペット奏者のイアン・カーと共に結成した「ドン・レンデル・イアン・カー・クインテット」での活動です。このクインテットは、1960年代後半のイギリスジャズシーンにおいて革新的なサウンドを生み出し、後のジャズロックやブリティッシュ・ジャズ・ファンクの隆盛に影響を与えました。彼らは『シェイズ・オブ・ブルー』、『ダスク・ファイア』、『フェイズ・スリー』、『チェンジ・イズ』、『ライヴ』といった数々の名作を世に送り出しました。特に『シェイズ・オブ・ブルー』や『ダスク・ファイア』は、その美しいメロディとモーダルなアプローチで高く評価されています。

イアン・カーとの活動と並行して、ニール・アードレイのオーケストラ作品など、他のミュージシャンのアルバムにも多数参加し、その多才ぶりを発揮しました。ジョニー・ダンクワース、マイケル・ガーリック、アマンシオ・デ・シルヴァなど、共演したアーティストは多岐にわたります。

自身のリーダーアルバムも長年にわたり制作し続け、初期の『Meet Don Rendell』や『Playtime』から、後期の『Time Presence』や『If I Should Lose You』に至るまで、彼の音楽的探求の軌跡をたどることができます。彼のディスコグラフィは、イギリスジャズ史における重要な資料となっています。

主要リーダー・アルバム（抜粋）

Meet Don Rendell (1955)
Playtime (1958)
ローリン - Roarin' (1961)
シェイズ・オブ・ブルー - Shades of Blue (1965) ※with イアン・カー
ダスク・ファイア - Dusk Fire (1966) ※with イアン・カー
フェイズ・スリー - Phase III (1968) ※with イアン・カー
チェンジ・イズ - Change Is (1969) ※with イアン・カー
ライヴ - Live (1969) ※with イアン・カー
ギリシャ変奏曲 - Greek Variations & Other Aegean Exercises (1970) ※with イアン・カー、ニール・アードレイ
Space Walk (1972)
* If I Should Lose You (1992)

ドン・レンデルは、その優れた演奏技術と、時代と共に変化を受け入れる柔軟な音楽性で、イギリスジャズシーンにおいて確固たる地位を築きました。彼の残した作品群は、今日でも多くのジャズファンやミュージシャンに聴き継がれています。

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