ドン・ロビー

ドン・ロビー（1903年 11月1日 - 1975年 6月16日）は、アメリカ合衆国を代表するレコード会社及びナイトクラブ経営者、そして音楽プロデューサーでした。彼はピーコック・レコードを立ち上げ、後にはデューク・レコードの経営も手掛けるなど、1950年代から1960年代にかけて、数多くのリズム・アンド・ブルース・アーティストたちのキャリア形成に強い影響力を行使しました。アフリカ系アメリカ人がレコード業界で中心的な存在となる道を切り開いた人物としては、黎明期のブラック・スワン・レコードを設立したハリー・ペイスに続く存在であり、その活動は後のモータウン・レコードによる成功に10年近く先んじるものでした。

彼のビジネス慣行には悪名高い側面もあり、関わったミュージシャンの中には彼の貢献を高く評価する声がある一方で、暴力や脅迫といった手段を事業に取り入れていたとの指摘もあります。特に問題視されたのは、彼が自身のレーベルからリリースされた多くの楽曲において、本名や別名のデアドリック・マローン名義で作曲者または共作者としてクレジットされていたことです。実際には、彼は出版権を獲得したのみで、作詞作曲自体にはほとんど関わっていなかったとされています。当時の多くのレーベル経営者は、わずかな対価で楽曲を買い取り出版権を得るのが一般的でしたが、ロビーの場合は作者のクレジット自体を偽装したため、彼が手掛けた楽曲の本来の作者を特定することが極めて困難な状況を生み出しました。

ヒューストンの第5区に生まれたロビーは、ユダヤ系の母とアフリカ系の父を持ち、祖父は医師でした。彼は早い段階で学校を辞め、賭博師として生計を立て始めます。人生の大半をヒューストンで過ごしたと本人は語っていましたが、若い頃に綿花畑で働いたり、ガルヴェストンで港湾労働者として働いていた時期があることが資料から明らかになっています。また、最初のナイトクラブ経営のためロサンゼルスに滞在した経験もあります。20歳になる頃には結婚し、一子をもうけていました。

ヒューストンに戻った後、ロビーは酒類販売会社の営業職を経て、1930年代前半から中頃にかけて事業を拡大します。最初にタクシー会社を設立し、続いて自身初の娯楽施設となるスウィート・ドリームズ・カフェを第5区に開業し、ヒューストンのアフリカ系アメリカ人コミュニティにおける地位を確立しました。1934年にはレノックス・クラブを開店し、スウィート・ドリームズ・カフェをマンハッタン・クラブと改称して州外のバンドを招聘するようになります。さらに、パートナーのモリス・メリットと共に、大規模なダンスホールであるハーレム・グリルを開設し、ワーナー・バーンズやドン・アルバートといった有名ミュージシャンが出演しました。1941年には、インディアナポリスのプロモーターであるデンヴァー・ファーガソンとの連携を深めています。

音楽ビジネスへの本格的な関わりは、1945年にブロンズ・ピーコック・ダイナー・クラブを開業したことから始まります。ここではダンスイベントが催され、ルース・ブラウン、ルイ・ジョーダン、ライオネル・ハンプトン、T-ボーン・ウォーカーなどの著名アーティストが出演する一方、違法な賭博も黙認されていました。ヒューストンの歴史家ロジャー・ウッドは、このクラブを「1940年代から1950年代におけるアフリカ系アメリカ人所有・経営の南部ナイトクラブとして、おそらく最も洗練された存在だったろう」と評し、その質の高い料理、ドリンク、一流のミュージシャンによる演奏、そして裕福で上品な客層について描写しています。

1947年、ロビーはブルース・ミュージシャンのクラレンス・"ゲイトマウス"・ブラウンのマネージャーとなり、メリットとビジネス・マネージャーのエヴリン・ジョンソンと共にバッファロー・エイジェンシーを設立しました。2年後、ブラウンがアラディン・レコードでの商業的成功を得られずにいる状況を受けて、ロビーは自身のレーベル、ピーコック・レコードを立ち上げ、ブラウンを最初のアーティストとして迎え入れます。ジョンソンはロビーが「レコードとホイールキャップの区別がつかないほど音楽業界に疎かった」と述べていますが、彼はブラウンを含む様々なR&Bアーティストを通じて成功を収め、中でもビッグ・ママ・ソーントンの「ハウンド・ドッグ」はナンバーワン・ヒットとなりました。また、リトル・リチャードも一時ピーコックと契約しています。

1952年にはピーコックをテネシー州メンフィスのデューク・レコードと統合し、デューク・ピーコックが誕生しました。翌年、ロビーはデュークの所有権を完全に取得し、ブロンズ・ピーコック・クラブを閉鎖してリハーサル及びレコーディング・スタジオへと改装します。当初デューク・ピーコックの最大のスターはジョニー・エイスでしたが、彼の死後にはジュニア・パーカー、ボビー・ブランド、ジョニー・オーティスらが中心的存在となりました。ブルースやR&B以外にも、ロビーのレーベルはゴスペル分野で重要なレコードをリリースしており、ディキシー・ハミングバーズ、マイティ・クラウズ・オヴ・ジョイ、ファイヴ・ブラインド・ボーイズ・オヴ・ミシシッピ、スワン・シルヴァートーンズなどが成功を収めました。彼はR&Bに特化したバック・ビート・レーベルも設立し、O.V.ライトやロイ・ヘッドがヒットを放っています。後にシュア・スポットやソング・バードといったレーベルも買収しました。

ロビーのビジネス手法は、所属アーティストに専属ブッキングやマネジメント契約も強いるものでした。そして、前述の通り、デアドリック・マローン（ロビーのミドルネームと妻の旧姓を合わせた名前）名義で多くの楽曲に作曲者クレジットを入れ、出版ロイヤルティを得ていました。彼はミュージシャンが書いた楽曲の出版権を購入し、その上で作者クレジットを自分名義や共作名義に変更するという手法を取りました。この行為は当時でも問題視されることがありましたが、彼のこのやり方は特に悪質であったとされています。具体的な例としては、ボビー・ブランドのヒット曲「Farther Up the Road」（エリック・クラプトンのライブでも有名）において、ロビーはジョー・メディック・ヴィーシーとの共作としてクレジットされていますが、実際はヴィーシー単独の作曲であったと言われています。ブランドの別のヒット曲「I Pity The Fool」や、「Turn On Your Love Light」（多くのカバーで知られ、映画『ブルース・ブラザース2000』でも使用された）においても、ロビーが作曲に関わっていない可能性が高いにもかかわらず、クレジットされています。

彼のレコード会社は、1950年代においてアフリカ系アメリカ人が経営するビジネスとしては、アメリカで最も成功した一つと見なされています。彼はレコード店、プレス工場、印刷店、さらに別のナイトクラブ「コンティネンタル・ショーケース」なども経営しており、多角的な事業を展開していました。しかし、その手法は論争を呼びました。ソングライターのジェリー・リーバーはロビーを「ギャングスター」と呼び、暴力、脅迫、殺人といった手段を用いてエンターテインメント事業を運営していたと証言しています。ビジネスパートナーだったエヴリン・ジョンソンは、ロビーが常に銃を携帯していたことに触れつつも、「あれは自己満足だったと思う。彼は銃を使うことはなかったからね。彼はそういう自身のイメージを演じていたんだ」と語っています。一方、ブルース・ギタリストのピート・メイズは「彼は我々多くの人たちに尽くしてくれた」と肯定的に評価しています。歌手のロイ・ヘッドは「歌手は彼のことが好きだった。彼に人生を狂わされたのはソングライターたちだ。それが彼の汚点だね。あの楽曲の殆どは他の人たちが書いたものだったんだから。ドンは彼らに25ドルか50ドル程度握らせて、曲を自分のものにしたんだ」と、ソングライターへの不利益を指摘しました。それでもゲイトマウス・ブラウンは、「彼は他の誰もできなかったことをアメリカでやってのけた。彼は世界に名の知れた唯一の黒人のレコード会社を作ったんだから」と、経営者としてのロビーの功績を高く評価しています。

ロビーは1973年に自身のレコード・レーベルをABCダンヒル・レコードに売却しましたが、その後もコンサルタントとして関わりました。彼は1975年 6月16日、ヒューストンのセントルーク病院にて心臓発作のため71歳で亡くなりました。

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