ルース・ブラウン
ルース・ブラウン（Ruth Brown、1928年1月12日 - 2006年11月17日）は、アメリカ合衆国出身の著名なR&B歌手です。1950年代、彼女はアトランティック・レコードから多くの楽曲を世に送り出し、ポピュラー音楽のスタイルをR&Bに取り込むことでジャンルの発展に貢献しました。一時は活動を休止しましたが、1970年代半ばからの復帰後も歌手、俳優、社会活動家として活躍し、グラミー賞受賞をはじめ数々の栄誉に輝きました。著名なラッパー、ラキムは彼女の甥にあたります。
バージニア州ポーツマスに、7人きょうだいの長女として、ルース・アルストン・ウェストン（Ruth Alston Weston）として生まれました。父は港湾労働者として働きながら、地元の教会で聖歌隊を指導しており、ルースも一時的にゴスペルを歌う経験がありましたが、間もなくUSOやナイトクラブでの歌唱活動へと進みました。1945年、ルースはトランペット奏者のジミー・ブラウンと共にポーツマスを離れ、彼と結婚しました。バーやクラブで歌手として働いていた時期には、ラッキー・ミリンダーのオーケストラに短期間所属しましたが、飲酒が原因でトラブルを起こし、ワシントンD.C.に置き去りにされ解雇されてしまいました。
ワシントンD.C.で解雇されたルースに声をかけたのは、ブランシュ・キャロウェイとキャブ・キャロウェイ姉弟が率いるバンドでした。彼女は姉弟と共にナイトクラブ「クリスタル・キャバーンズ」で歌い、その才能を確信したキャロウェイ姉弟が彼女のマネージャーとなりました。地元のディスクジョッキー、ウィリス・コノバーも彼女の歌唱力を高く評価し、アトランティック・レコードの創設者であるアーメット・アーティガンとハーブ・エイブラムソンに紹介しました。しかし、その矢先に交通事故で重傷を負い、9ヶ月もの入院生活を送ったため、一度は予定されていたオーディションを断念せざるを得なくなりました。それでも、1948年にアーティガンとエイブラムソンはルースを諦めず、ニューヨークからワシントンまで車を走らせ、ナイトクラブでの歌唱を聴き、その場で契約を決断しました。
当初、ルースは主にポピュラーなバラッドを歌っていましたが、アーティガンはR&Bへの転向を強く勧めました。彼女の持ち味を生かすため、アーティガンはブルースの要素を抑えつつ、ポップな魅力を十分に引き出した、新鮮で洗練されたアレンジを楽曲に施しました。1949年、「So Long」でアトランティックからデビューすると、これがヒットを記録。1950年にはルディ・トゥームズ作曲の「Teardrops from My Eyes」をリリースし、この陽気なリズムを持つ楽曲はビルボード誌のR&Bチャートで11週連続第1位を獲得し、R&B界におけるルースの地位を不動のものとしました。彼女には「ミス・リズム」というニックネームが付けられ、また「R&Bの女王」として広く知られるようになりました。「R&B」という略称は「リズム・アンド・ブルース」ではなく、「ルース・ブラウン（Ruth Brown）」の略称だと言われるほど、彼女は絶大な影響力を持つ存在でした。
その後も「I'll Wait for You」、「I Know」(1951年)、「5-10-15 Hours」、「(Mama) He Treats Your Daughter Mean」(1953年)、「Oh What a Dream」、「Mambo Baby」(1954年)、「Don't Deceive Me」(1960年)など、数多くのヒットが続きました。「Little Miss Rhythm」、「The girl with the teardrop in her voice」も彼女の代表曲として挙げられます。1949年から1955年にかけて、彼女のレコードはR&Bチャートのトップ10に合計149週にわたりチャートインするほどの大ヒットとなり、16曲中5曲が第1位を記録しました。アトランティック・レコードの看板アーティストとして活躍し、その成功ぶりから社のビルは「ルース・ブラウン御殿」と呼ばれるまでになったと言われています。
1960年代に入ると、ルースは家庭生活を優先し、公の場での活動を控えるようになりました。しかし、1975年にコメディアンのレッド・フォックスからの強い要望に応え、復帰を果たします。復帰後は、テレビドラマ『ハロー・ラリー』や、ジョン・ウォーターズ監督の映画『ヘアスプレー』（ファンキーなレコード店の店主役）、トニー賞を受賞したミュージカル『ブラック・アンド・ブルー』など、俳優としても成功を収めました。歌手としても精力的に活動を再開し、ミュージカルの曲を集めたアルバム『ブルース・オン・ブロードウェイ』（1989年）でグラミー賞最優秀女性ボーカル賞を受賞するなど、再び成功を収めました。1989年にはPioneer Awardを受賞し、1993年には「ブルースの女王母（The Queen Mother of the Blues）」としてロックの殿堂入りを果たしました。また、1993年にはB.B.キングのアルバム『ブルース・サミット』にゲスト参加したほか、同じくロックの殿堂入りを果たしているチャールズ・ブラウンとの共演や、1990年代後半には女性ブルースギタリストのパイオニアであるボニー・レイットとの合同ツアー「Road Tested」を行うなど、精力的な活動を展開しました。1995年には自伝『Miss Rhythm』を出版し、音楽ジャーナリストを対象としたGleason Awardを受賞しています。
音楽活動と並行して、ルース・ブラウンは社会的な貢献も行いました。1987年にはハウエル・ベーグルらと共にリズム・アンド・ブルース財団を設立し、旧世代のR&Bミュージシャンの権利保護やロイヤリティーの確保に取り組んだのです。『JazzImprov』誌に掲載された記事では、ルースは多くの黒人女性から尊敬を集める象徴として支持されており、ボニー・レイットをはじめとする後進のブルース歌手に多大な影響を与えた存在としても認識されていると評されています。晩年に至るまでその影響力は健在で、2006年にはゼネラルモーターズ社のハマーH3のコマーシャルに彼女の楽曲「This Little Girl's Gone Rockin'」が採用されました。
2006年11月17日、ルース・ブラウンはラスベガス近郊の病院で息を引き取りました。10月に外科手術を受けていましたが、死因は心臓発作と脳卒中でした。
彼女がR&Bにもたらした革新、アトランティック・レコードでの圧倒的な成功、そして復帰後の多岐にわたる活躍と社会貢献は、アメリカ音楽史において重要な足跡を残しています。
スタジオ・アルバム
ロック&ロール - Rock & Roll (1957年、Atlantic)
Miss Rhythm (1959年、Atlantic)
レイト・デート・ウィズ・ルース・ブラウン - Late Date with Ruth Brown (1959年、Atlantic)
Along Comes Ruth (1962年、Philips)
Gospel Time (1962年、Philips)
65 - Ruth Brown '65 (1965年、Mainstream)
ブラック・イズ・ブラウン・アンド・ブラウン・イズ・ビューティフル - Black Is Brown and Brown Is Beautiful (1969年、Skye)
ザ・リアル・ルース・ブラウン - The Real Ruth Brown (1972年、Cobblestone/Buddah)
Sugar Babe (1976年、President) ※『Brown Sugar』として1985年に再発
You Don't Know Me (1978年、Dobre)
ブルース・オン・ブロードウェイ - Blues on Broadway (1989年、Fantasy)
Brown, Black & Beautiful (1990年、SDEG/Ichiban)
ファイン・アンド・メロウ - Fine and Mellow (1991年、Fantasy)
ザ・ソングス・オブ・マイ・ライフ - The Songs of My Life (1993年、Fantasy)
R + B = Ruth Brown (1997年、Bullseye Blues)
A Good Day for the Blues (1999年、Bullseye Blues)
ライブ・アルバム
The Soul Survives (1982年、Flair)
Takin' Care of Business (1983年、Stockholm)
Have a Good Time (1988年、Fantasy)
Live in London (1995年、Jazz House)
コンピレーション・アルバム
ベスト・オブ・ルース・ブラウン - The Best of Ruth Brown (1962年、Atlantic)
Miss Rhythm (Greatest Hits And More) (1989年、Atlantic)
参加アルバム
サド・ジョーンズ & メル・ルイス : ビッグ・バンド・サウンド - The Big Band Sound of Thad Jones/Mel Lewis Featuring Miss Ruth Brown (1968年、Solid State)
ベニー・カーター : Benny Carter Songbook (1996年、MusicMasters)
ベニー・カーター : Benny Carter Songbook Volume II* (1997年、MusicMasters)
来歴
初期キャリア
バージニア州ポーツマスに、7人きょうだいの長女として、ルース・アルストン・ウェストン（Ruth Alston Weston）として生まれました。父は港湾労働者として働きながら、地元の教会で聖歌隊を指導しており、ルースも一時的にゴスペルを歌う経験がありましたが、間もなくUSOやナイトクラブでの歌唱活動へと進みました。1945年、ルースはトランペット奏者のジミー・ブラウンと共にポーツマスを離れ、彼と結婚しました。バーやクラブで歌手として働いていた時期には、ラッキー・ミリンダーのオーケストラに短期間所属しましたが、飲酒が原因でトラブルを起こし、ワシントンD.C.に置き去りにされ解雇されてしまいました。
デビューと「R&Bの女王」
ワシントンD.C.で解雇されたルースに声をかけたのは、ブランシュ・キャロウェイとキャブ・キャロウェイ姉弟が率いるバンドでした。彼女は姉弟と共にナイトクラブ「クリスタル・キャバーンズ」で歌い、その才能を確信したキャロウェイ姉弟が彼女のマネージャーとなりました。地元のディスクジョッキー、ウィリス・コノバーも彼女の歌唱力を高く評価し、アトランティック・レコードの創設者であるアーメット・アーティガンとハーブ・エイブラムソンに紹介しました。しかし、その矢先に交通事故で重傷を負い、9ヶ月もの入院生活を送ったため、一度は予定されていたオーディションを断念せざるを得なくなりました。それでも、1948年にアーティガンとエイブラムソンはルースを諦めず、ニューヨークからワシントンまで車を走らせ、ナイトクラブでの歌唱を聴き、その場で契約を決断しました。
当初、ルースは主にポピュラーなバラッドを歌っていましたが、アーティガンはR&Bへの転向を強く勧めました。彼女の持ち味を生かすため、アーティガンはブルースの要素を抑えつつ、ポップな魅力を十分に引き出した、新鮮で洗練されたアレンジを楽曲に施しました。1949年、「So Long」でアトランティックからデビューすると、これがヒットを記録。1950年にはルディ・トゥームズ作曲の「Teardrops from My Eyes」をリリースし、この陽気なリズムを持つ楽曲はビルボード誌のR&Bチャートで11週連続第1位を獲得し、R&B界におけるルースの地位を不動のものとしました。彼女には「ミス・リズム」というニックネームが付けられ、また「R&Bの女王」として広く知られるようになりました。「R&B」という略称は「リズム・アンド・ブルース」ではなく、「ルース・ブラウン（Ruth Brown）」の略称だと言われるほど、彼女は絶大な影響力を持つ存在でした。
その後も「I'll Wait for You」、「I Know」(1951年)、「5-10-15 Hours」、「(Mama) He Treats Your Daughter Mean」(1953年)、「Oh What a Dream」、「Mambo Baby」(1954年)、「Don't Deceive Me」(1960年)など、数多くのヒットが続きました。「Little Miss Rhythm」、「The girl with the teardrop in her voice」も彼女の代表曲として挙げられます。1949年から1955年にかけて、彼女のレコードはR&Bチャートのトップ10に合計149週にわたりチャートインするほどの大ヒットとなり、16曲中5曲が第1位を記録しました。アトランティック・レコードの看板アーティストとして活躍し、その成功ぶりから社のビルは「ルース・ブラウン御殿」と呼ばれるまでになったと言われています。
復帰後の活動
1960年代に入ると、ルースは家庭生活を優先し、公の場での活動を控えるようになりました。しかし、1975年にコメディアンのレッド・フォックスからの強い要望に応え、復帰を果たします。復帰後は、テレビドラマ『ハロー・ラリー』や、ジョン・ウォーターズ監督の映画『ヘアスプレー』（ファンキーなレコード店の店主役）、トニー賞を受賞したミュージカル『ブラック・アンド・ブルー』など、俳優としても成功を収めました。歌手としても精力的に活動を再開し、ミュージカルの曲を集めたアルバム『ブルース・オン・ブロードウェイ』（1989年）でグラミー賞最優秀女性ボーカル賞を受賞するなど、再び成功を収めました。1989年にはPioneer Awardを受賞し、1993年には「ブルースの女王母（The Queen Mother of the Blues）」としてロックの殿堂入りを果たしました。また、1993年にはB.B.キングのアルバム『ブルース・サミット』にゲスト参加したほか、同じくロックの殿堂入りを果たしているチャールズ・ブラウンとの共演や、1990年代後半には女性ブルースギタリストのパイオニアであるボニー・レイットとの合同ツアー「Road Tested」を行うなど、精力的な活動を展開しました。1995年には自伝『Miss Rhythm』を出版し、音楽ジャーナリストを対象としたGleason Awardを受賞しています。
音楽活動と並行して、ルース・ブラウンは社会的な貢献も行いました。1987年にはハウエル・ベーグルらと共にリズム・アンド・ブルース財団を設立し、旧世代のR&Bミュージシャンの権利保護やロイヤリティーの確保に取り組んだのです。『JazzImprov』誌に掲載された記事では、ルースは多くの黒人女性から尊敬を集める象徴として支持されており、ボニー・レイットをはじめとする後進のブルース歌手に多大な影響を与えた存在としても認識されていると評されています。晩年に至るまでその影響力は健在で、2006年にはゼネラルモーターズ社のハマーH3のコマーシャルに彼女の楽曲「This Little Girl's Gone Rockin'」が採用されました。
死去
2006年11月17日、ルース・ブラウンはラスベガス近郊の病院で息を引き取りました。10月に外科手術を受けていましたが、死因は心臓発作と脳卒中でした。
彼女がR&Bにもたらした革新、アトランティック・レコードでの圧倒的な成功、そして復帰後の多岐にわたる活躍と社会貢献は、アメリカ音楽史において重要な足跡を残しています。
スタジオ・アルバム
ロック&ロール - Rock & Roll (1957年、Atlantic)
Miss Rhythm (1959年、Atlantic)
レイト・デート・ウィズ・ルース・ブラウン - Late Date with Ruth Brown (1959年、Atlantic)
Along Comes Ruth (1962年、Philips)
Gospel Time (1962年、Philips)
65 - Ruth Brown '65 (1965年、Mainstream)
ブラック・イズ・ブラウン・アンド・ブラウン・イズ・ビューティフル - Black Is Brown and Brown Is Beautiful (1969年、Skye)
ザ・リアル・ルース・ブラウン - The Real Ruth Brown (1972年、Cobblestone/Buddah)
Sugar Babe (1976年、President) ※『Brown Sugar』として1985年に再発
You Don't Know Me (1978年、Dobre)
ブルース・オン・ブロードウェイ - Blues on Broadway (1989年、Fantasy)
Brown, Black & Beautiful (1990年、SDEG/Ichiban)
ファイン・アンド・メロウ - Fine and Mellow (1991年、Fantasy)
ザ・ソングス・オブ・マイ・ライフ - The Songs of My Life (1993年、Fantasy)
R + B = Ruth Brown (1997年、Bullseye Blues)
A Good Day for the Blues (1999年、Bullseye Blues)
ライブ・アルバム
The Soul Survives (1982年、Flair)
Takin' Care of Business (1983年、Stockholm)
Have a Good Time (1988年、Fantasy)
Live in London (1995年、Jazz House)
コンピレーション・アルバム
ベスト・オブ・ルース・ブラウン - The Best of Ruth Brown (1962年、Atlantic)
Miss Rhythm (Greatest Hits And More) (1989年、Atlantic)
参加アルバム
サド・ジョーンズ & メル・ルイス : ビッグ・バンド・サウンド - The Big Band Sound of Thad Jones/Mel Lewis Featuring Miss Ruth Brown (1968年、Solid State)
ベニー・カーター : Benny Carter Songbook (1996年、MusicMasters)
ベニー・カーター : Benny Carter Songbook Volume II* (1997年、MusicMasters)
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