ドージェのアンドレア・グリッティの肖像

ドージェ・アンドレア・グリッティの肖像

作品概要

『ドージェのアンドレア・グリッティの肖像』は、盛期ルネサンスのヴェネツィア派を代表する巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1540年代後半に油彩で描いた作品です。この肖像画は、1523年から1538年にかけてヴェネツィア共和国の元首（ドージェ）を務めたアンドレア・グリッティを描いています。作品には「Titianus E. F.」という署名が確認できます。グリッティの死後に制作されたため、過去に存在したグリッティの肖像画、特に1577年の火災で焼失したドゥカーレ宮殿の大広間に飾られていた作品を参考に描かれた可能性があります。

現在、この作品はワシントンのナショナル・ギャラリーに所蔵されており、ティツィアーノの卓越した技術と、描かれた人物の威厳を今日に伝えています。

詳細

グリッティは、ドージェの帽子をかぶり、金糸で輝く豪華な国家の装束を身につけて、腰から上の姿で描かれています。彼は口を固く結び、やや厳しい表情で左側をじっと見つめています。握りしめた手が、幅広い袖から覗いています。金色のブロケードの輝き、白い毛皮の裏地、白い髭、そして帽子の上の金色のレースが、わずかな色彩で巧みに描かれています。突き出た眉毛の下で、部分的に影になっている目が、彼の威厳を強調しています。

グリッティは芸術の重要な庇護者でもありました。彼の指示により、数多くのティツィアーノによる宗教画、歴史画、寓意画が制作されましたが、その多くは失われてしまっています。

制作時期

この作品は、かつてイル・ポルデノーネの作品とされていましたが、美術史家のゲオルク・グローナウによって否定されました。作品の様式は、グリッティのドージェ就任初期（1523-1538年）ではなく、1540年以降のティツィアーノの肖像画、例えばパラティーナ美術館の『ピエトロ・アレティーノの肖像』に近いとされています。ナショナル・ギャラリーは、この作品が1546年から1550年の間に制作されたと推定しています。

分析

本作は、ティツィアーノがヴェネツィア共和国の公式画家として描いたアンドレア・グリッティの全肖像画の中で、現存する唯一の作品です。この作品は、国家の肖像画のための予備習作として用いられた可能性があり、ティツィアーノによって大まかにスケッチされ、わずか数回の制作で仕上げられたとされています。グローナウは、「意匠の自発的な新鮮さ、技術面での真実的な自然さから、強い印象を与える」と述べています。

絵画の構図と特徴は、本作が公的な肖像画ではなく、私的な委嘱であった可能性を示唆しています。実際、この絵画はグリッティ家の所有となりました。

この絵画は、ミケランジェロの『モーセ像』（ローマ、サン・ピエトロ・イン・ヴィンコリ聖堂）との関連性が指摘されています。両作品は畏敬の念を起こさせるという点で共通しており、特にグリッティの右手が『モーセ像』の手に影響を受けている可能性があります。彫刻家のヤコポ・サンソヴィーノが『モーセ像』の手の石膏の型をヴェネツィアに持ち込んだとされており、ティツィアーノは、その型を参考に威厳を表現したと考えられます。

来歴

この絵画は、1626年にイングランド王チャールズ1世のためにイタリアで購入され、ロンドンのホワイトホール宮殿に飾られました。しかし、1651年10月23日にロンドンのサマセット・ハウスでの競売で売却されました。その後、ヴェンツェル・アントン・フォン・カウニッツが所有し、1794年にヴェンツェル・アロイス（カウニッツ王子）に相続されました。1820年3月13日、ウィーンのカウニッツ競売で売却され、ウィーンのヨハン・ルドルフ・ツェルニン・フォン・ヒューデニッツ伯爵が購入しました。

相続を経て、1933年にはウィーンのオイゲン・ツェルニン・フォン・ヒューデニッツ伯爵の所有となり、少なくとも1948年まで伯爵が所有していました。1954年、ニューヨークのサミュエル・H・クレス財団に売却され、1961年にワシントンのナショナル・ギャラリーに寄贈されました。

ギャラリー

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脚注

(脚注の内容は省略)

参考文献

(参考文献リストは省略)

外部リンク

ナショナル・ギャラリー (ワシントン) 公式サイト、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『ドージェのアンドレア・グリッティの肖像』
The Metropolitan Museum of Artのページ
* ウィキメディア・コモンズ

この作品は、ティツィアーノの卓越した技量と、グリッティの力強い存在感を伝える重要な作品です。その歴史的背景と美術史における位置付けは、ルネサンス美術を研究する上で欠かせないものです。

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