ピエトロ・アレティーノの肖像

ピエトロ・アレティーノの肖像

ティツィアーノ・ヴェチェッリオによって1545年に描かれた『ピエトロ・アレティーノの肖像』は、ルネサンス期の肖像画の傑作として知られています。この作品は、当時の著名な作家であり風刺家であったピエトロ・アレティーノの依頼により制作されました。

人物：ピエトロ・アレティーノ

ピエトロ・アレティーノは、1517年にローマを訪れ、その卓越した風刺の才能によって頭角を現しました。彼は、有力な政治家や宗教家を嘲笑することでキャリアを築き、最終的には「王子の惨劇」として知られる事件を引き起こすまでに至りました。その過激な言動から多くの敵を作り、1525年には命を狙われてローマを離れ、ヴェネツィアに移住しました。ヴェネツィアでティツィアーノと親交を深めたアレティーノは、しばしば国家元首や友人に贈るための肖像画を依頼しました。ティツィアーノの他にも、セバスティアーノ・デル・ピオンボ、ティントレット、ジョルジョ・ヴァザーリなど、多くの画家がアレティーノの肖像画を描いています。ティツィアーノは、少なくとも3枚のアレティーノの肖像画を制作し、さらに2つの大きな作品にもアレティーノを描いています。

作品：肖像画の魅力

本作品は、ティツィアーノの肖像画の中でも特に傑出した作品の一つとされています。ティツィアーノは、アレティーノの特徴を捉えつつ、その自堕落な好色家というイメージを好意的に描いています。長く豊かな顎髭は彼の活力を強調し、首に掛けられた重厚な金のネックレス、そして体を包む広大な深紅の外套は、彼の誇り高く毅然とした雰囲気を際立たせています。金のネックレスは、1538年にアレティーノがフランス国王フランソワ1世から授与されたものと考えられ、深紅の外套はヴェネツィアの貴族としての地位を示しています。アレティーノはティツィアーノの親しい友人であり、頻繁に彼のアトリエに通っていたため、ティツィアーノはアレティーノの肖像を理想化することなく、その個性を捉えた迫力ある肖像画を迅速に制作することができました。外套の描写は未完成のまま残されており、ティツィアーノのキャリア後期の作品であることを示唆しています。ティツィアーノの筆致は大胆でありながら、生地の折り目や光の反射の表現は卓越しています。

アレティーノ自身もこの肖像画を非常に気に入り、コジモ1世に宛てた手紙の中で、「絵画の中の自分が息をし、脈を打ち、精神を動かしている」と、その生き生きとした描写を賞賛しています。また、パオロ・ジョーヴィオには、この作品を「偉大なる魂の筆から生み出された奇跡」と称賛し、心からの満足を表現しています。

来歴：メディチ家とのつながり

この肖像画は、ティツィアーノの『イッポーリト・デ・メディチの肖像』とともに、当初からフィレンツェのメディチ家のために制作され、現在まで所蔵されている唯一のティツィアーノの作品です。ジョルジョ・ヴァザーリは、コジモ1世の貴重品収蔵室でこの絵画を目撃し、『画家・彫刻家・建築家列伝』の中でその素晴らしさを称賛しました。1697年6月20日にピッティ宮殿に移された後、1800年から1802年にかけてナポレオンの旧施設廃絶のためにパレルモに移送されましたが、幸いにもフランスに運ばれることはなく、1956年に現在の展示場所であるパラティーナ美術館に移されました。

別バージョン：複数の肖像画

バーゼル美術館には、ティツィアーノが描いたアレティーノの最初の肖像画と思われる作品が所蔵されています。この作品は、1527年にマントヴァ侯爵フェデリコ2世・ゴンザーガに贈られるために制作されたと推定されています。フリック・コレクションに所蔵されているバージョンは、1537年頃に制作されたもので、ティツィアーノとアレティーノの共通の友人である出版業者フランチェスコ・マルコリーニのために描かれたものです。ヴァザーリはこのバージョンを、パラティーナ美術館の作品ほど美しくはないと評価しています。

ギャラリー

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脚注

特になし

参考文献

イアン・G・ケネディー『ティツィアーノ』、Taschen（2009年）
『イタリア・ルネサンス 都市と宮廷の文化展』アントーニオ・バオルッチ、高梨光正、日本経済新聞社（2001年）

外部リンク

* ウフィツィ美術館公式サイト, ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『ピエトロ・アレティーノの肖像』

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