ナクバの否定

ナクバの否定 (Nakba Denial)

ナクバの否定とは、1948年のイスラエル建国前後にパレスチナ人が直面した歴史的な出来事、すなわち「ナクバ」（大惨事）の全体または一部を否定する歴史修正主義的な言説やその主張そのものを指します。ナクバは、イスラエル建国を主導した勢力によって約75万人のパレスチナ人が故郷を追われ難民となり、数百の集落が破壊され、多数の虐殺が発生した出来事として記録されています。ナクバの否定論は、これらの歴史的事実を否定するか、その重要性を矮小化しようと試みるものです。

否定論者が主張する具体的な内容には、以下のようなものがあります。

歴史的に記録されたパレスチナ人に対する暴力行為の否定。
パレスチナ人としての固有のアイデンティティが存在しなかったとする主張。
パレスチナの土地が、人の住まない荒野であったという認識の押し付け。
パレスチナ人の強制的な移動が、戦争の結果としてアラブ側との相互合意に基づき生じたかのように正当化する主張。

このような否定論は、シオニズムの歴史観において核心的な要素として位置づけられており、初期のイスラエルにおける歴史研究によって促進されたという指摘も存在します。しかし、1980年代以降、いわゆる「新歴史家」と呼ばれるイスラエルの歴史家たちが、機密指定解除された公文書などの新たな史料に基づき、ナクバの否定論に異議を唱える研究を進めました。彼らの研究や、ユダヤ系イスラエル人による関連文献の増加によって、ナクバの歴史的現実はより広く知られるようになりました。

それでもなお、ナクバの否定論はイスラエル国内やアメリカ合衆国などで現在も広く見られる言説であり、しばしば反アラブ的な人種差別的言説と結びついています。イスラエル政府は2011年、通称「ナクバ法」と呼ばれる法律を制定し、イスラエルの独立記念日でもあるナクバの日を追悼の日として扱う団体への公的資金交付を差し止めることを可能としました。これに対し、ナクバから75年を迎えた2023年5月には、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長が、1948年の追放やナクバを否定する言説を違法とする措置を発表しました。

パレスチナ側は、イスラエルが占領と暴力の継続に対する責任を回避するためにナクバの否定論を利用していると非難しています。パレスチナ人作家で歴史家のヌール・マサルハは、イスラエルの教育者たちが意図的に生徒からナクバの悲劇を隠し、パレスチナの集合的記憶が存在しないかのような国家物語を構築していると指摘しています。また、イスラエルの新歴史家であるイラン・パッペは、ナクバ否定論が「イスラエル国家における集団的ユダヤ人アイデンティティ構築の主要な構成要素」となっていると述べています。

ナクバの否定は、単なる言論に留まらず、ナクバに関する記録や記憶を組織的に消去・抹消する行為としても現れました。入植活動が本格化した1920年頃から地理的消去が始まり、1948年以降は加速しました。パレスチナのアラビア語に基づいた伝統的な地名は次々とヘブライ語に改称されるなど、「ヘブライ化」が進められました。例えば、ヨルダン川西岸地区は「ユダヤ・サマリア地区」と改称されるなどしました。

また、ナクバによって無人となったパレスチナの町や村は、「砂漠の緑化」や「環境保護」といった名目のもと、大規模な植林が進められました。これは、町や村の物理的な痕跡や地名を消し去ると同時に、パレスチナ人が帰還するべき家や故郷が存在しない状態を作り出すことで、彼らの帰還を阻止する意図があったとされます。さらに、イスラエル国防省が、ナクバの証拠となりうる歴史的記録文献を組織的に秘匿していたことが明らかになっています。

国際社会でもナクバ否定に関連する動きが見られます。イスラエルへの批判が時に反ユダヤ主義として抑圧される傾向が見られるドイツでは、2024年3月に特定の政党関係者によって、ナクバの歴史的事実を否定する内容を含むパンフレットが高校で配布された事例があります。

アメリカ合衆国では、2024年6月にコロンビア大学のロースクールで発行される法学雑誌に、ナクバを法的概念として位置づけ、イスラエルによるガザでの行為やパレスチナ人に対する体制を批判する論文が掲載されようとした際、ロー・スクールの教授や卒業生から成る委員会が掲載中止を求める圧力をかけました。学生編集者たちは圧力に屈せず論文をウェブサイトに掲載しましたが、これに対し委員会は、論文が掲載されたウェブサイト全体をアクセス不能にするという異例の措置をとりました。これは、学生編集者の独立性を尊重する慣行から逸脱した、極めて異例の事態として報じられています。

ナクバの否定は、歴史的事実の改変を通じて、現在のパレスチナ人の権利や苦難の認識を歪め、イスラエルによる支配構造を正当化しようとする試みであり、国際的な議論の対象となっています。

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