ナゴルノ・カラバフ自治州

ナゴルノ・カラバフ自治州は、1923年から1991年まで、ソビエト連邦内のアゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国に存在したアルメニア人のための民族自治州です。この地域は古くからアゼルバイジャン人とアルメニア人の間で係争地となっており、その帰属をめぐっては複雑な歴史的背景があります。

歴史的背景

カラバフ地域は、南カフカース南部に位置し、歴史的にアゼルバイジャン人とアルメニア人の間で領土紛争が絶えませんでした。アルメニア人は、この地が古代アルメニア王国の時代からアルメニア文化の中心地であったと主張します。一方、アゼルバイジャン人は、自らがカフカース・アルバニア人の末裔であり、アルメニア人よりも古くからこの地域に居住していたと主張しています。

ナゴルノ・カラバフは、カラバフの中でも山岳地帯に位置し、特にアルメニア人が多く居住していました。1916年の時点で、ナゴルノ・カラバフのアルメニア人は総人口の約70%を占めていましたが、アゼルバイジャン側は、これは19世紀以降にアルメニア人が入植した結果であると主張しています。

自治州の成立

ロシア帝国崩壊後、アゼルバイジャンとアルメニアがそれぞれ独立を果たしましたが、カラバフは依然として両国の係争地でした。1920年代初頭、この地域が共産化されると、ボリシェヴィキの間でナゴルノ・カラバフの帰属先についての意見が分かれました。最終的に、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンに帰属することになり、その代わりに住人の大多数であるアルメニア人には自治権が与えられました。こうして1923年にナゴルノ・カラバフ自治州が成立しましたが、その実態をめぐっては両民族の間で依然として論争が続いていました。

帰属をめぐる争い

1980年代末のペレストロイカ時代になると、棚上げされていた帰属問題が再燃しました。アルメニア人は、自治州とアルメニアとの統合を求め、活動を開始しました。これに対し、アゼルバイジャン人は強く反発し、両民族間の衝突は激化し、多数の死者を出す事態に発展しました。これがナゴルノ・カラバフ戦争の引き金となりました。

ソビエト連邦の崩壊に伴い、自治州のアルメニア人は「ナゴルノ・カラバフ共和国」を自称し、アゼルバイジャンから事実上独立しました。しかし、国際社会からは国家として承認されておらず、アゼルバイジャンとの間で紛争が続いています。

アゼルバイジャンの共産化と帰属問題

1920年代、アゼルバイジャンとアルメニアの間で軍事衝突が発生する中、ロシア社会主義連邦ソビエト共和国はアゼルバイジャンに侵攻し、ボリシェヴィキによるアゼルバイジャン社会主義ソビエト共和国を成立させました。当初、ボリシェヴィキはナゴルノ・カラバフをアゼルバイジャンに編入することに賛成する意見が多数でしたが、党中央委員会では反対意見も強くありました。

最終的に、ナゴルノ・カラバフの帰属は、自治権を付与するという形で決着しました。しかし、この決定は両民族の間で不満が残り、後の紛争の種となりました。

アルメニアの共産化と自治権の付与

アゼルバイジャンの共産化から半年後、アルメニアもボリシェヴィキによって共産化されました。この際、アゼルバイジャン側はナゴルノ・カラバフの放棄とアルメニアへの編入を認めるという声明を出しましたが、後にこの声明は歪曲されたものだと主張しました。

1921年、ナゴルノ・カラバフの帰属を巡り、ボリシェヴィキ党内で議論が重ねられました。最終的には、ナゴルノ・カラバフに自治権を付与するという形で決着しました。しかし、この決定はナリマン・ナリマノフをはじめとするアゼルバイジャン側の反対も根強く、両民族間の不信感を増大させました。

自治州の解体

ソビエト連邦が弱体化すると、アルメニア人はナゴルノ・カラバフをアルメニアへ編入するよう求める運動を活発化させました。1988年には、自治州のソビエトも公然とアルメニア編入を訴えるようになりました。しかし、アゼルバイジャン側はこれに強く反発し、両民族間の衝突が激化しました。

最終的に、ソビエト連邦が崩壊すると、アルメニア人はナゴルノ・カラバフの独立を宣言しました。アゼルバイジャンはこれに反発し、ナゴルノ・カラバフ戦争へと発展しました。この戦争は多数の犠牲者を出し、両民族間に深い傷跡を残しました。

社会と経済

アルメニア人の主張

アルメニア人は、自治州において常にアゼルバイジャン人によって権利を侵害されてきたと主張しています。アゼルバイジャン政府は、自治州にアゼルバイジャン人を移住させることでアルメニア人の勢力を縮小させようとしたり、学校でアルメニア史の授業を禁止したり、教会建築を破壊したりしたと訴えています。また、アルメニア人がアゼルバイジャン人に殺されても捜査や裁判がまともに行われず、工場や企業などの経済活動も制限されたと主張しています。

アゼルバイジャン人の主張

一方、アゼルバイジャン人は、自治州でアルメニア人が圧迫されていた事実はなく、むしろ差別を受けていたのはアゼルバイジャン人であると主張しています。アゼルバイジャンは、ソ連の中でも最貧国であったにもかかわらず、自治州のアルメニア人は本国よりも恵まれた生活を送っていたと主張しています。公式統計でも、アルメニア人の生活水準がアゼルバイジャン人よりも高かったというデータも存在します。

産業

自治州の経済構造は第二次産業に乏しく、アゼルバイジャンに強く依存していました。工業生産額は、アゼルバイジャン全体の1.8%に過ぎず、農業生産額も3％程度でした。自治州では、畜産や果物栽培が盛んであり、中でも葡萄の栽培は重要な産業でした。

地理と行政

自治州の面積は4388平方キロメートルであり、アゼルバイジャン全体の5%を占めていました。行政区画は、独立市のステパナケルトに加えて5つの地区に分けられていました。住民の多くは山岳地帯に居住しており、人口密度は地域によって異なっていました。

まとめ

ナゴルノ・カラバフ自治州は、複雑な歴史的背景と民族間の対立が絡み合った地域でした。ソビエト連邦の崩壊とともに独立を宣言しましたが、アゼルバイジャンとの間で領土問題を抱えたまま現在に至っています。この地域の紛争は、多くの人々を苦しめ、未だ解決の糸口が見えない状況です。この歴史を教訓とし、平和的な解決への道を探る必要性が求められています。

もう一度検索