ナサニエル・パーカー・ウィリス

ナサニエル・パーカー・ウィリス（1806年1月20日 - 1867年1月20日）は、アメリカ合衆国メイン州出身の著作家、詩人、編集者であり、19世紀アメリカ文学界において重要な人物の一人です。彼はエドガー・アラン・ポーやヘンリー・ワズワース・ロングフェローといった著名な文学者たちと交流し、その作品は当時の読者に広く読まれました。

生涯と経歴

ウィリスはメイン州ポートランドで、出版社の家庭に生まれました。祖父は新聞社を経営し、父は子供向けの新聞「ユースズ・コンパニオン」を創刊しました。彼はイェール大学で文学に目覚め、詩集の出版を始めました。大学卒業後は「ニューヨーク・ミラー」紙の海外特派員を務め、その後ニューヨークに移り、文学的な実績を積みました。多くの出版社と協力し、原稿1本で100ドル、年間5000ドルから1万ドルを稼ぐ人気作家となりました。

1846年には、自ら雑誌「ホーム・ジャーナル」を発刊しました。この雑誌は後に「タウン・アンド・カントリー」と改名されました。発刊から間もなくハドソン川沿いの家に移り、1867年に亡くなるまで、半ば引退者のような生活を送りました。

ウィリスの作品は個性的で、特に紀行文は読者に具体的なイメージを与え、人気を博しました。しかし、彼の性格や行動はしばしば批判の対象となり、妹のサラからは「女々しい」と評され、ヨーロッパかぶれだと批判する批評家もいました。それでも、彼は詩集、寓話集、戯曲など、幅広いジャンルの作品を出版しました。

初期の経歴と家族

1806年1月20日、ウィリスはメイン州ポートランドで、父ナサニエル・ウィリスと母ハンナ（旧姓パーカー）の間に生まれました。父はポートランドの新聞の所有者であり、祖父はボストンとバージニアで新聞社を経営していました。妹のサラは後にファニー・ファーンという筆名で作家として活躍し、弟のリチャードは作曲家兼音楽ジャーナリストとして知られています。

1816年、ウィリス一家はボストンに移り、父は「ボストン・リコーダー」を創刊しました。さらに9年後には、世界初の子供向け新聞「ユースズ・コンパニオン」を創刊しました。父の宗教的な姿勢から、「助祭」ウィリスというニックネームで呼ばれていました。ウィリスはボストンのグラマースクールとアンドーバーのフィリップス・アカデミーで学び、1823年にイェール大学に入学しました。イェール大学では文学への興味を深め、他の教科をないがしろにすることが多くありました。1827年に卒業後、国内外を旅しました。

文学の経歴

1820年代後半、ウィリスは雑誌や定期刊行物に多くの作品を寄稿しました。1829年には文芸誌「ザ・トークン」の編集者となり、その創刊者を除けば、15年間唯一の編集者でした。同年、「アメリカン・マンスリー・マガジン」を創刊しましたが、1831年に廃刊となりました。その後、ヨーロッパに移り、「ニューヨーク・ミラー」誌の海外特派員となりました。1832年には、フィレンツェで彫刻家のホレイショ・グリーノーと出会い、後にグリーノーはウィリスの胸像を制作しました。

1832年から1836年、ウィリスは「ニューヨーク・ミラー」誌に一連の記事を寄稿し、その一部は後に『Pencillings by the Way』として出版されました。この作品はヨーロッパでの生活をロマンティックに描き、高い評価を得ました。しかし、彼の私的な会話を伝える際の無分別さも批判され、編集者との間で無血の決闘騒ぎを起こしたこともありました。

1835年、ウィリスはイギリスでメアリー・ステイスと結婚しました。夫妻はアメリカに帰国後、ニューヨーク州に小さな荘園を購入し、グレンマリーと名付けました。ウィリスはここで『橋の下からの手紙』などの作品を執筆しました。1838年には、記事がスキャンダルを引き起こし、出版社が謝罪する事態となりました。1839年には、戯曲『高利貸しのトーテサ』が上演され、エドガー・アラン・ポーから絶賛されました。

1840年代初頭、ウィリスは「ブラザー・ジョナサン」誌で毎週コラムを執筆し、年間4,800ドルという破格の原稿料を得ていました。また、元奴隷のハリエット・アン・ジェイコブスを雇用し、彼女の自由を買い戻すなど、複雑な側面を持っていました。

イブニング・ミラー

1844年、ウィリスはジョージ・ポープ・モリスとともに「ニューヨーク・ミラー」を日刊の「イブニング・ミラー」に再編しました。この頃、ウィリスはアメリカで最も高給な雑誌寄稿者の一人となり、原稿1本で100ドル、年間5000ドルを稼ぎました。

「イブニング・ミラー」紙は、エドガー・アラン・ポーの詩『大鴉』を最初に掲載したことでも知られています。ウィリスはポーを友人として支えましたが、ポーとヘンリー・ワズワース・ロングフェローの文学的対立に巻き込まれることもありました。また、ウィリスはポーをファニー・オズグッドに紹介し、二人の文学的な浮気に繋がるきっかけを作りました。

1845年、妻のメアリーが亡くなり、ウィリスは娘のイモジェンを妻の家族に預け、一人でアメリカに戻りました。1846年、裕福なクエーカー教徒のコーネリア・グリネルと再婚しました。彼女はウィリスより20歳年下で、奴隷制度に反対していました。

ホーム・ジャーナル

1846年、ウィリスはモリスと共に「イブニング・ミラー」を離れ、週刊誌「ホーム・ジャーナル」を創刊しました。この雑誌は、中流階級に向けて、家族で回し読みされることを意図していました。ウィリスは、自身の経験を例に、読者に上昇志向を伝えました。この雑誌は1901年に「タウン・アンド・カントリー」と改名され、現在も発行が続いています。

ウィリスは「ホーム・ジャーナル」で、多くの女性詩人の作品を紹介し、ヘンリー・デイヴィッド・ソローやナサニエル・ホーソーンの作品にも好意的な書評を載せました。

アイドルワイルド

1846年、ウィリスはハドソン川近くに家を建て、アイドルワイルドと名付けました。健康上の問題を抱えていたウィリスは、その後、アイドルワイルドで隠遁生活を送りました。妻のコーネリアも出産後の病気で療養しており、その間に4人の子供をもうけました。

アイドルワイルドでの晩年、ウィリスは「ホーム・ジャーナル」への寄稿を続け、ポーの死後、ルーファス・ウィルモット・グリスウォルドによるポーの作品集の出版を支援しました。また、俳優のエドウィン・フォレストとの離婚裁判に巻き込まれ、暴力事件を起こされるなど、晩年も波乱に満ちていました。

ルース・ホール

1854年以降、ウィリスは妹のサラ・ウィリス（ファニー・ファーン）の作品掲載を拒否しました。サラは貧窮者となり、虐待的な夫との間で苦労していました。ウィリスはサラを批判し、詩で皮肉を込めました。サラはファニー・ファーンとして自伝的小説『ルース・ホール』を出版し、ウィリスを「ヒアシンス・エレット」として描きました。この小説は、ウィリスを女々しく利己的な編集者として描いており、ウィリスは公然とは抗議しませんでしたが、個人的には妹を支えようとしていました。

晩年と死

晩年、ウィリスは病状が悪化し、癲癇の発作に悩まされました。1867年1月20日、61歳の誕生日に亡くなり、マサチューセッツ州ケンブリッジのマウントオーバーン墓地に埋葬されました。葬儀には、ロングフェロー、ジェイムズ・ラッセル・ローウェル、オリバー・ウェンデル・ホームズ・シニアなどが参列しました。

評価

ウィリスは、その善良な人柄と優れた才能により、多くの人々に愛されました。しかし、その性格はしばしば批判の対象となり、「女々しい」、「ヨーロッパかぶれ」、「ホモ」といったレッテルを貼られました。

ウィリスの作品は、読者が作家の私生活に関心を持った時代に人気を集めました。彼は「上位1万人」という言葉を作り、自身の紀行文で読者に生活を提案しました。しかし、ウィリスは謙虚な一面も持ち、自身の文学的な価値を疑問視するような表現を使うこともありました。

出版界では、ウィリスは新しい才能を発掘し、読者の関心を引くことに長けた、優れた編集者として知られています。しかし、彼の文学的な価値については、エドガー・アラン・ポーやその他の批評家からは疑問視されていました。

1850年代、ウィリスの人気は衰退し、その死後、名声は過去のものとなりました。しかし、1946年、「タウン・アンド・カントリー」の100周年号で、ウィリスはアメリカ文学史における重要な人物として再評価されました。

主な作品

ウィリスは、詩、小説、紀行文、戯曲など、幅広いジャンルの作品を執筆しました。主な作品には、『Pencillings by the Way』、『ハリー・グラフス』、『アイドルワイルドの屋外』、『ポール・フェイン』などがあります。

まとめ

ナサニエル・パーカー・ウィリスは、19世紀アメリカ文学界において、多才な才能を発揮した人物です。彼の文学的な功績と波乱に満ちた人生は、今なお、多くの人々の関心を集めています。

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