ナジブ・ラザク

ナジブ・ラザクとは

ナジブ・ラザク（Mohammad Najib bin Tun Haji Abdul Razak）は、1953年7月23日生まれのマレーシアの政治家であり、同国第6代首相を務めました。彼は第2代首相アブドゥル・ラザクの長男であり、政治家としての血筋を受け継いでいます。しかし、その政治キャリアは、後に大規模な汚職事件によって大きな影を落とすことになりました。

首相就任と1MDB設立

2004年1月7日にマレーシアの副首相に就任した後、2009年4月3日に第6代首相に昇格しました。首相として、ナジブはクアラルンプールを「イスラム金融のロンドン」とする構想を掲げ、国際金融地区「トゥン・ラザク・エクスチェンジ（TX）」の建設を推進しました。その中核事業として、国有投資会社「1マレーシア・デベロップメント・ブルハド（1MDB）」を設立しました。しかし、この1MDBが後に巨額の不正流用事件の中心となります。

1MDB不正流用事件

1MDBは設立当初から巨額の借金を抱えており、2014年には約1兆4000億円もの負債が発覚しました。さらに、ナジブ一族と華僑系大富豪ジョー・ローによる不正疑惑が浮上し、2015年には1MDBからナジブ個人の銀行口座に約850億円の不正入金が報じられました。この報道をきっかけに、大規模な抗議デモが発生し、ナジブの政治生命は危機に瀕しました。

ナジブは、批判を封じ込めるために反対勢力を締め出し、政府批判をするジャーナリストらを逮捕し、不正疑惑を報じた経済紙2紙の発行を禁止するなど、独裁的な姿勢を強めました。

政権交代と逮捕

2018年5月9日、下院議員選挙でナジブが率いるUMNOは、マハティール・ビン・モハマドを首相候補とする野党連合に敗北し、マレーシア史上初の政権交代を許す結果となりました。これにより、ナジブはUMNOの総裁を辞任し、出国禁止処分を受けました。

その後、警察の捜査により、ナジブの自宅から大量の宝石類や現金、ブランド品が押収されました。同年7月3日には、1MDBに関する汚職疑惑で逮捕され、起訴されました。アメリカ合衆国司法省は、1MDBの資産のうち、約45億ドルがナジブ一族によって私的に流用されたと発表しました。妻のロズマ・マンソールも資金洗浄などの容疑で逮捕されました。

有罪判決と収監

2020年7月28日、クアラルンプールの裁判所は、ナジブに対し権力乱用罪で禁錮12年と罰金約52億円の有罪判決を言い渡しました。ナジブは一貫して無罪を主張し、控訴しましたが、2022年8月23日に連邦裁判所が上告を棄却し、一、二審判決が確定。ナジブはカジャン刑務所に収監されました。また、妻のロズマも禁錮10年と約290億円の罰金刑を言い渡されました。

恩赦による減刑

2024年2月2日、マレーシア王室は恩赦によりナジブの刑期を12年から6年に減刑すると発表しました。罰金も減額されましたが、依然として服役中です。

その他の疑惑

ナジブの疑惑は1MDB事件だけではありません。パハン州の伐採スキャンダルや、モンゴル人女性殺害事件への関与疑惑も浮上しています。特にモンゴル人通訳アルタントゥヤが爆殺された事件では、ナジブの関与を示唆する証言も出てきています。

また、2013年の総選挙では、選挙操作疑惑も指摘されました。ナジブ政権は、2015年に物品・サービス税（GST）を導入しましたが、これも批判の対象となりました。さらに、LGBTの権利を批判し、国家安全保障会議法を制定するなど、人権問題や独裁的な政治手法も非難されました。

「主食はキヌア」発言

2018年には、ナジブが「主食はキヌア」と発言したことが大きな波紋を呼びました。キヌアは当時、マレーシアでは一般的ではなく、高級食材と見なされていました。この発言は、庶民の生活感覚からかけ離れていると批判され、野党や市民団体から反発を招きました。

SOP違反

2021年には、新型コロナウイルス感染症対策における標準運用手順（SOP）に違反したとして、罰金を科せられました。このように、ナジブは、首相退任後も数々の問題行動が指摘されています。

結論

ナジブ・ラザクは、マレーシアの政治史において、その功績とスキャンダルによって複雑な評価を受ける人物です。首相としての政策や経済発展への貢献は評価される一方で、1MDB事件などの汚職疑惑は、彼の政治家としてのキャリアに深い傷跡を残しました。現在も服役中であり、彼の事件はマレーシアの司法制度や政治の透明性に対する重要な教訓となっています。

彼の事件は、政治における倫理と責任の重要性を改めて認識させるものであり、今後のマレーシア政治において、大きな教訓として語り継がれるでしょう。

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